怒り
37.3度。
「熱が上がらないのと、咳が出ずに頭痛にいったから、多分大丈夫だろう」という、肺炎に詳しい夫母の見込みではあるが、家族で話し合い、念のため、入院する時の段取りをしておこうということになった。
急変する人がいるからだ。
それから、私の食欲が落ちている。
食べてもまずいからだ。
栄養ゼリー、ドリンク、カロリーメイトを無理やり食べている。
うちには、猫が3匹、うさぎが1匹。
これは、会社員時代にマネージメントしていた経験上から、イレギュラーの時は、私はなんでも最悪を想定して動く。
ありとあらゆる考えつく限りの手は先に打つ。
だから、いつも、あんまりひどいことにならない。
神さまは信じているが、運に任せるほど、私は楽天的ではない。
そこに人間が絡むなら、なんでも起きうる。
親は高齢だ。
巻き込めない。
友人?巻き込めない。
幸い、夫が名古屋だ。
いい距離だ。
私は夫に電話して、私が入院したら、その日は普通に仕事して、2日後から、あなたが大阪から名古屋に最低限の通勤とリモートワークの組み合わせにしてくれと言った。
幸い、夫の会社は、今週から大阪本社が本社ビルごと閉めて、完全リモートワークに切り替えたため、リモートワークのシステムはできている。
2日あれば、夫も仕事の段取りを変える時間はあるだろう。
夫の会社の方針は、どうやら人命最優先っぽいので、多分いけるだろう。
私の体調不良は、すでに、夫の会社には報告されている。
私は言った。
「ただし、2日間は、絶対に帰ってこないで。
私がアレなら、部屋の中にウイルスが蔓延している。」
猫たちも、ギリギリ2日間なら、がんばれるだろう。
「ポストに封筒を入れておく。その中に、N95のマスク、ビニール手袋、除去シート、アルコール消毒液を入れておく。
ドアノブに触る前に、手袋をして、それから、ドアノブを拭いて。
玄関に段ボールを置いておく。
中に雨がっぱを入れておくから、それを着てから家に入って。
石鹸を入れておくから、石鹸水を作って、家中を拭いて。
私の布団は、ベランダに出して。しばらく干しっぱなしにして。」
「猫たちを拭いてやって。それまで、触っちゃいけない。」
「窓を開けっぱなしにして。」
N95のマスクは9枚だけ、実家から発見された。
父が余命宣告され、抗がん剤治療を受けていた時のものだ。
母に頼んで、2枚だけ送ってもらうことにした。
ビニール手袋は、私が仕事で使っていたから、山のようにある。
私が、アレかどうかは、もし入院しても、数日経たねばわからない。
対策しとくにこしたことはない。
だから、はよ、検査せえよ、と、私はまた思った。
これがただのしつこい風邪やったら、なんなの、バカらしい。
人の人生をなんだと思ってやがると、私は、少し腹を立てた。
おかしいよ。
補償はしない、自粛しろ。
それで、自粛するわけないやんか。
みんな生活あるねん。
資金に余裕がある会社しか、売り上げ下がるとわかってる時期に、リモートワークのシステム組むかいな。
しかも、スマホもよう使わんような、アナログなおじさん達がわかるシステム組まんとあかんのやで。
絶対に止められない業種は仕方ないとしても、その人たちにも金を払え。
支えてんのは、医療従事者だけじゃねえ。
目立つとこだけやるんじゃねえ。
ばかなのか?
スーパー、ドラッグストア、コンビニ、宅配業者、農家、食品メーカー、医療薬品メーカー、電鉄、交通、みんな、休みたくても、最後まで休めない。
親が働くなら、保育所。
介護。通信、生活インフラ。
本当に、人の人生を、なんだと思ってやがる。
私は無性に腹が立った。
そして、いかんいかん、怒ったら免疫が下がると思った時。
どうしたことか、猫がスーパーのゴミ袋の取っての中に入り込んだまま、にゃあ〜と鳴きながら、家の廊下を走り回りはじめた。
私は、笑ってしまった。
どこにあったの?そのゴミ袋?