SさんとUさんと地獄とルシファー

Sさんと言う笑顔が素敵な八十歳手前のおばあちゃんが、教会にいる。
Sさんは、ファンキーなので、私は好きだ。やんちゃな感じがする。

なかなかパンチのきいた人生を歩んでこられたようだが、今は、娘さんやたくさんのお孫さんに囲まれて幸せそうだ。
Sさんいわく、神さまのおかげで、ずうっと幸せなのだそうだ。

こういう人が言うと、それは、かなり説得力がある。
それで、私は、Sさんの言うことは素直に聞く。
私は、幸せそうな人が言うことは、素直に聞く。

(ちなみに、ジーザスの言うことを聞くのも、彼が、大望を叶えたからだ。ちょっとその方法は悲しいけど、それしか方法がなかったんだろう。)


Sさんは、私に、いろいろ教えてくれる先生でもある。
また、私は、Sさんの作ってくれるイチゴ大福が大好きだ。
好きすぎて、自分の洗礼式の時にもお願いして作ってもらったくらいだ。


Sさんの鞄の中には、いつも、ゴミ袋が入っている。
落ちているゴミを拾うことも、近所の人にニコニコ挨拶することも、みんな、神さま広報宣伝活動なのだと、私に教えてくれた。

そして、クリスマス会の時に、会場の周りの草抜きを一緒にした。

そんなSさんがある日言った。

「こんなこと言うとあれだけど、私はもうね、死んだ後、地獄でもいいわって時々思うの。こんなにね、めぐみを沢山もらって、毎日毎日、笑って暮らせてね、もう十分だわよ。地獄でも仕方ないわ。」

私は、あははははと笑って、それから言った。

「私も同じです。私は、地獄に行った場合、どうやれば、ルシファー(エンマ大王みたいなもの。地獄を仕切ってる悪魔)と仲良くなれるか考えようと思っていて。」

Sさんは、けらけら笑い、「じゃあ、また地獄で会ったらよろしくね」と言った。

そして、2人は爆笑した。

それを聞いていたUさんというおっちゃんが、私に、「あんた、ルシファーは恐ろしいんやで」と言った。
Uさんは、面白いおっちゃんで、私はUさんをからかって遊ぶのが好きだ。

Uさんは、「僕にだけ、敬語を使わんね、あんた。まあいい、愛は感じていますよ」としぶしぶ笑っている。


私は、「地獄も、長い時間の間に、ちょっとは住みやすくなってるかもしれないし」と笑った。

なぜ、自分は地獄前提なのか、よくわからないが、まあ、そうなったら、その時だ。

住めば都と言うではないか。


ミカエルという天使が、地獄か天国か決めるという噂もあるから、死んだ後に、まず、ミカエルに渡す賄賂は何がいいかを考えておいた方がいいかもしれない、と、私は考えている。

真面目なルートで、天国に行く気はないらしい。


もう十分よ。
私の一枠を誰かに譲れるなら、辛い人生を送った誰かに譲るわ、と、私はほんとに思っている。

私は、ミカエルとルシファーと、交渉する。
または、地獄で、地獄の環境改革に取り組んでもいいと思う。
退屈しないですみそうだ。

問題は、ミカエルとルシファーが、日本語がわかるかどうかだ。


Uさんは、「あんたな、ルシファーは怖いんやで」と、また言った。
Uさんは、まるで、ルシファーに会ったことがあるように言うのが、面白い。


この、日常には何の役にも立たない、礼拝後のばかばかしい非日常の会話は、私にかなりのリラックス効果をもたらしている。

だいたい、ゲラゲラ笑っている。

笑えるのが一番。