息子の一人立ち

生活用品が詰まった段ボール数箱を集荷に来てくれた青い制服を着た運送会社の人が、私に聞いた。
「息子さんの進学ですか?」


夫と以前に話したことがある。
もしも、私が、一度目の実家から逃亡するための結婚をしていなければ、私が28歳か29歳の時に、私達は結婚していたのではないか?という話。
そこで、私たちは一度再会しているからだ。

もしも、そこで結婚していたら、私たちの子供はもう大学生だ。
私の子供が、実家から大学に通うとは考えにくいから、きっと子供はもう家を出ている。
どちらにしても、もう、このタイミングでは、うちには子供はいなかったんじゃないか?

私は、本当にそう感じたのだ。


運送会社の人だけではなく、私は、子供がいるように見られることが多い。
年齢もあるだろうが、雰囲気がすでに大きい子供がいるお母さんぽいらしい。


「息子さんの進学ですか?」と尋ねた人に、私は、「いや、夫なんです。単身赴任で」と答えた。

そして、それから、ああ、これでまた一つ経験できた、と思った。
お母さんだったなら自分が経験したこと一つ。

ああだこうだ心配しながら、文句や注意をしながら、荷物をつめ、そして、手を放すこと。

夫はどうやら、私の息子役もしていてくれたらしい。
私は気がついた。


彼の母親が結婚した時に私に言った。
「時間がなくて、ご飯を食べさせる以外はほったらかしたの。ごめんなさいね。」
彼女は、産休が二か月しかなかった時代にフルタイムで働き続けた人だ。


確かに、夫はほったらかされて育った人にありがちなパターンだった。
なぜ、親から教わっていない?と謎なことが沢山あった。
私は、夫の母に、非常に感謝していたので、それを引き受けることにした。
彼女たちの世代のがんばりがなければ、今、女性はこんなに自由に働けていない。

それで、私は、最初の三年、ぎゃんぎゃん、彼に口を出した。

笑え、姿勢を正せ、挨拶をちゃんとしろ、礼を言え、人には親切にしろ、人が喜ぶことをしろ、ああだこうだ。
自己啓発本は全て捨てろ。
話は、それ以前だ。

幼稚園の私に母が言ったことを、私は、そっくりそのまま、夫に言った。
教えてもらってないから、できないだけだと思ったからだ。

それらは知っていても意味がない、できなくては意味がないことだ。
身につくのには、時間がかかる。

だから、ぎゃんぎゃん言うしかない。
それで、ぎゃんぎゃん言った。

実の母親にしかできないパートがあったので、そこは二週間、実家にお戻り頂いた。
つまり、家を追い出した。
夫は知らないが、私は裏で、夫の母と手を組んでいた。



その数年間で、私たちは家を引っ越しし、夫は転職し、新卒の時に落ちた希望の会社で、今、働く。

結婚当初から、私が、アウトカムに設定していたのは、夫が本来いるべき場所に、夫を戻すことだった。


そして、つい最近、夫は旅立っていった。

私は、本当にまるで、息子が一人立ちした時みたいな気分だ。
知らんけど。

なんか、プロジェクトが終わったみたいな気分とも言える。


私は夫に感謝した。

そして、夫のお母さんはこれにて廃業だ、と思った。