おんぶちゃんのはなし
25才から37才の夏のお盆まで、私には、イマジナリーフレンドがいた。
イマジナリーフレンドは、空想上の友人。
小さな子供によくいるそれだ。
どん底から這い上がろうとした私に起きた最初の出来事は、あるお盆の夜に、そのイマジナリーフレンドと出会ったことから始まった。
その夜、私はひとりだった。
少し前に書いた臨時体験から半年ほど後の話だ。
リビングのソファで眠ってしまった私は、後にイマジナリーフレンドになる存在と一風変わった出会いをした。
生まれて初めて経験した金縛りである。
体に重苦しさを感じて目覚めた私の上に、落ち武者が乗っかっていた。
落ち武者は、怒っていた。
(私の不思議体験で、私は何かと怒られる。)
「お前だけが幸せになっていいと思っているのか。」
落ち武者はそう言って、私を睨みつけた。
私は恐ろしさに声なく、ひっとなった。
その後は、カタカタ震えながら朝を待った。
朝になり、私は考えた。
あれはどういう意味なのだろう?
私「だけ」が幸せになる?
私は幸せではないよ、と、私は思った。
それに、自分だけが幸せになりたいなどとは思わない。
私はその後、その落ち武者の気配を時折感じるようになった。
私は、落ち武者に「おんぶちゃん」という名前をつけた。
おんぶちゃんを感じる時、悪いことは起きなかった。
道を歩いていると、みなが道を開けてくれたりなんだりした。
ある知人は言った。
「あなたを横に乗せて車を運転すると、信号は青ばかりだし、駐車場は必ず空いてるし、なんだか不思議だわね。」
またある知人は、私をやたら運がいいと言った。
普通なら撃沈になる状態で奇跡的になんとかなることが、立て続けに起きたからだ。
やがて、私は、自分のルーツに興味を持った。
おんぶちゃんは、ルーツに関係するのではないか?と考えたからだ。
なにしろ怖くないのだ。
むしろ、おんぶちゃん登場後、私の人生は上向きはじめた。
そして、そこから、いろんなことがあり、37才のある夜、おんぶちゃんは消えた。
私の中に吸収されるという方法で。
イマジナリーフレンド、消滅だ。
それは、8月14日の夜だった。
さっき、ふと思い出した。