夫にきれた日

 私が最近、何に一番腹を立てていたかといえば、夫兄妹である。

夫には一度、話したけれど。


生真面目で、これまでの人生がとても平和だった夫の母は、この数ヶ月で、少し人が変わったような目つきになった。

これまでに色々ありすぎて、今など屁の河童くらいのうちの両親とは対極的だった。


彼女の変化は、恐怖が原因だ。

死の恐怖だと思う。

これは、やっかいなものに捕まったと、私は思った。


彼女はクレバーな人なので、やがて、自分で工夫を始めたが、それでも、一度心に巣食い、目覚めた恐怖は、人をジワジワと蝕む。


このままいくと、完璧に病むなと、私は思った。


私は、夫が、自分の母親をほったらかすことに、まず、腹を立てた。

いったい誰のお母さんなんだ、と。

夫の妹にも腹を立てた。


家族関係というのは様々で、夫の母が自分で過去に、「うちは、もめごともないけど、関係も希薄。あなたの実家がしょっちゅうもめてるのは、あなたの家族がそれだけ互いに関わってるからだ」と言ったことがある。


だから、夫や彼の妹と夫の母との関わりは、まあ、いつもどおりといえばいつも通りだったのだが、家族の誰かがいつも通りでない時に、いつも通りな夫にまじ切れした。


この人は、よくも悪くも、いつも同じだ。

また、夫は、人の変化に気がつきにくい。

というか、根本的に、彼はあまり人間に興味がない。

(これは、普段、私はだから彼が楽ちんなのだが、こういう時は腹が立つ。)


猫に抱くくらいの愛着を、人間にも感じていただきたいものである。


私でいいなら私がやるが、他人では、フォローできないことがある。

顔を見せるだけで心を和ませることができる飛び道具を持つのは、実の息子くらいなもんだ。


言っても聞かなかった夫は、だがしかし、私があることを告げた後、少し変わった。


私は、自分勝手になり、自分勝手な発言をすることにしたのだ。


「あなたね。もしも、これであなたのお母さんが1人でほっておけなくなったら、面倒を見るのは誰ですか?私ですよね?

あなた、何にもしませんよね?

はっきり言うけど、私は、あなたのお母さんに世話にはなっていませんよ。

彼女に育ててもらったわけでもない。

彼女が育てたのは、あなたですよね?


彼女に世話する人が必要になった時、あなたできませんよね?

あなたの妹も仕事してますよね?

私も仕事してるけど、一番、自由がきくのが私だから、どうせ、当たり前みたいに、私になりますよね?

あなたは、何もしないのだから、彼女の状態が悪くならないようにするくらいは協力して。」


私は、そう言った。

まじ切れして。

妻に恐れおののいた夫は、母親に連絡するようになった。



なんだ、結局、これが早かったと、私は思った。

親のありがたさを語っても、全く効果がない人だが、妻が怖いのは効果がある。


私が自分勝手でいることは、結局、重要で、私は私のことだけ考えてりゃいいのだ、と、私はまた思った。