骨壺と詐欺
昨日、あのねえ、と夫の母が言った。
私は10日に1度のペースで夫の母と1時間くらい、電話で話す。
夫の父が亡くなった6年前から続けている。
それで、昨日、あのねえから始まった夫の母の話は、骨壺の話だった。
新聞に、夫の母の骨が死後行く予定のお寺の話が載っており、そこに、来年から大きい骨壺は受け付けしませんと書いてあったのだという。
「だから、骨壺は小さいのでお願いね。もしもの時に見てもらう押入れに新聞は貼っておくけど」と夫の母が言うのを聞いて、私は大笑いした。
「骨壺のことまで先に考える、そんな人いませんよ」と、私は言った。
夫の母も大笑いしながら言った。
「あまりにも段取りを準備しすぎて、もう考えることがなくなってきたのよ。」
私はまだ笑いながら言った。
「介護も打ち合わせしちゃいましたしねえ。残るは死後の世界くらいですかねえ。」
夫の母は言った。
「それがね、それもいろいろあるのよ。」
そして、夫の母はリサーチしたらしい、いろいろな死後について語った。
この人は旅が好きで、世界のあちこちを旅してきた人だが、死後について語るその口ぶりは、まるで、これから行く観光旅行について話しているようだった。
次に旅行に行くのはどこがいいかしらね?という感じ。
私は、ゲラゲラ笑いながら、その話を聞いた。
夫の母の死への恐怖の対応はお見事だと思った。
最近ちょっとね、好奇心はあるのね、と、夫の母は言った。
いろいろやっているうちに、恐怖より好奇心が勝ちはじめたらしい。
「骨壺のことは、あなたのお母さんにも連絡してあげなくちゃと思っていたのよ。もしお父さんに何かあったら慌てなくていいように」と、夫の母は言った。
夫と私の実家は、たまたま、同じお寺がお墓だ。
親同士、仲がいいので、彼らはたまに連絡を取り合っている。
とりあえず、私の両親は、父が先に死ぬらしい。笑
「ともかく骨壺は小さい方で!」と、私と夫の母は、ゲラゲラ笑いながら電話を切った。
そして、私はまだ笑い足りなかったので、実家にそのまま連絡した。
「お母さん、そのうち、S代さん(夫の母)から電話がかかってくるから。骨壺は小さい方で!って」と私は、母に告げた。
話を聞いた母も爆笑していた。
「わかったわ、お父さんにも言っておくわね」と母が言ったので、私は、
「ううん。S代さんは、お父さんが死んだ時にお母さんが慌てないようにって言ってた」と言った。
母は、「まあ。お父さんとS代さんは同い年じゃないの」と笑っていた。
それから母は、ちょっと聞いて頂戴と、昼間、家に警察官がやってきた話をした。
警察官は、詐欺グループの名簿に、実家の電話番号が載っていると注意喚起に訪れたらしかった。
「お父さんがね。しばらく話題に困らなんなあって言ってるわ。」
2人は、いつ、詐欺電話がかかってくるのか、そして、どう答えるのかを考えているのだという。
どう聞いても、大はしゃぎな様子だ。
私はゲラゲラ笑った。
最後に母が言った。
「今日は2つも笑える話があって、いい日だったわね。」
私はゲラゲラ笑いながら、「骨壺と詐欺」と言った。
若い頃にはあり得なかった笑いだ。