ロマンチェスト
一度だけ、自分で作曲した曲をピアノで弾いてカセットに録音してプレゼントしたことがある。
陽だまり、という曲。
病気になったM先生にプレゼントするために。
M先生はもう長くはないと聞いていた。
そして、以前に何かの合宿の時に、M先生から私の弾くピアノが聞きたいと言われていた。
かとさん(と先生は私を呼んだ)の弾くピアノはきっと優しい音なんでしょうね、とM先生は言った。
私は泣きながら、即興で作った曲を弾いて録音してM先生の家に送った。
しばらくして、M先生から、ぶどうの木が描かれた便箋に書かれた手紙が送られてきた。
手紙には、かとさんは本当にロマンチェストで純粋な人ですね、ありがとう。
思った通り、優しい音色でした。
希望が湧きました、と書かれていた。
それが、私とM先生との最後のやりとりになった。
それから私は、いつか死んだ後に、がんばった!とM先生に報告できるためにがんばることにした。
いつか胸を張って、がんばりました!と言うために。
私は、認められたい承認欲求が低い。
これは非常に楽だ。
しかし、本当はそうじゃない。
私が褒めてもらいたい人は、M先生や中学の担任の先生で、彼らは死んでしまっているけれど、今なお、私の承認欲求を引き受けてくれていると気がついた。
彼らは死んでなお、私を助けてくれている。
と聞いたら、M先生はまた、ロマンチェストですね、ときっと笑うだろう。