緑の髪
あんまり近所で目立たないようにして欲しいけど、髪を可愛らしいグリーンに染めて欲しい。
昨日の夜、私は美容院の椅子に座り、ここ数年、私の髪の毛を切ってくれている美容師のお兄さんにそう言った。
お兄さんは笑いながら言った。
「無理です。可愛くグリーンにはできるけど、目立たないようには無理です。」
私は言った。
「目立ちたいわけじゃないのよ。ただ、髪の毛の色を好きにして遊ぶには今年はチャンスだと思って、色を変えたいだけなのよ。」
「この辺を緑の髪の毛の人が歩いているのを見たことあります?」とお兄さんは笑った。
私が住むのは、渋谷でもアメ村でもない。
私は、「もう少しいろんな色の髪の毛の人が増えるまで待ってもよかったんだけど、仕事的に今年はスーツを着る仕事がなさそうだからチャンスだと思って。でも目立ちたくはないの」と言った。
お兄さんは、「町にいろんな色の髪の毛の人が増えるのは、何年先ですか?まだまだかかる。そして、目立たないようにはできない」と笑った。
それで私は、可愛い緑だけを残した。
この場合、目立たないと可愛いは両立しないらしい。
一時間半後、私とお兄さんはハイテンションで、これはいい!と言った。
そしてお兄さんは、写真をパシャパシャ取った。
髪の毛を緑にするとは、なんとテンション上がる行為だろうと、私は思った。
鏡の中の私は、ハリーポッターかスタートレックに出演できそうだった。
ハリーポッターかスタートレックの中なら普通。
そして不思議なことだが、私は、「ああ、私が現れた」と思った。
自分の髪は、ずっと緑色だったみたいな気がした。
そして、ああ、これなら、私が変な人だということが明らかにわかると思った。
中身とのギャップがない。
私は私を変だと思ったことはなく、歪みあったり、自分が幸せになろうとしない人たちの方がよほど変だと思うが、ともかく変だとよく言われるので、これならギャップはなかろう。
夫は、2分でこの新しい色に慣れて「ずっとそうだったみたいだ」と言った。
夜、仕事の打ち合わせを友人としていた中で、私の口は、このお正月に父が私に言ったことを思い出した。
父は私に、「お前はバランスが悪い。できることはずば抜けてできるが、できないこともずば抜けてできない。会社員にはバランスがいるから、総合的にはやはりお前はできない。まあ、本人は幸せそうやから、ええけど」と言った。
私は友人に、私はそれを聞いて、何か解放された気分になったと言った。
私は、私の中にも、親から認めてもらいたいという気持ちがあって、それは、普通だと認めてもらいたいだったのだと、父の言葉を聞いて気づいたと言った。
私の両親が娘に望んだのは、普通の女の子の幸せ、みんなと同じように、だったから。
そしてその後、1人で鏡を見ながら、この髪の色は面白いと思った。
光の当たり具合で、黒にもグレーにも緑にも見える。
そしてそれから、スタートレックとまた思い、そして、あ!となった。
私は昨日、急に、髪を緑にしようと思ったのだが、その少し前に私がした作業は、この週末のイベント参加の準備で、メタファーの絵を描いたことだった。
私は、頭にUFOが入っている自分の絵を描いた。
あ!
UFOと私は思った。
この髪の毛の色は、私の体から私へのメッセージだと思った。
なぜならば、私のアウトカムは、自分の頭の中のUFOとコンタクトして情報が欲しいだったからだ。
宇宙人?と、私は思った。
それは、小さな頃から、親が私を呼んだ名称。
我が家の宇宙人。
頭の中がUFOなら、そりゃ宇宙人かと私は少し考え、それから、ん〜、となった。
ずっと緑の髪の毛でいるつもりはなく、まあ1か月くらいの話だと思うが、毎朝鏡を見るたびに、私は、UFOとコンタクトできるわけだねと、私は思った。
メタファーは、髪の色すら変えさせる。
ともかく、緑の髪は、自分らしい、と、私は思った。