ある披露宴にて

10年くらい前。
私はある披露宴に参加していた。
新婦が、以前に働いていた会社の後輩だったのだ。


披露宴の最中に私は紹介され、元の上司や同僚はこっちを見てクスクス笑った。
披露宴会場を出る時、新婦のご両親が、私に深々とお辞儀をされ、お礼を言われた。
私は、「無理を言って連れてきてしまったので、幸せになってくれてよかったです」と答えた。


みなが笑ったり、ご両親がお礼を言われたのには理由がある。

新婦が結婚した相手との縁ができるきっかけを、私が作ったからだ。
私にそんなつもりは毛頭なかったが。


披露宴は関西で行われたが、新婦はもともと、私が別の地方に転勤していた時の現地スタッフだった。
私が関西に異動になる時、私はまたしばらくしたらそこを離れることがわかっていたので、責任者ができる子を育てる必要があった。
私は、一箇所に二年以上はいられなかった。
新しい事業所を立ち上げれば、私の仕事は終わりだ。
それで、私は彼女に声をかけ、迷う彼女を半ば強引に関西に連れてきた。
そのままそこにいても、彼女は伸びないと感じたので、彼女にチャンスを渡したかったのもある。
人を育てるのは、私の仕事だった。


そして、私が会社を辞めた後のある日、彼女が連絡してきた。
前に私たちがいた地方のスタッフが、関西に遊びに来るのだという。

2人が彼氏が欲しいと言っているのを何度も聞いていた私は「あそこに言ってくるといいよ。いいご縁をありがとうございますって、お礼を言ってね。ご縁をくださいはだめよ」と言った。

そして、あそこ、に行った後、立ち寄ったお店で、彼女は披露宴の新郎席に座っていた人と出会った。


ご両親がお礼を言われたのは、「私が別の地域から連れてこなければ、私があそこに行けと言わなければ、娘の今日はなかった」ということだ。


私は、違うと思っている。


私は、ただ、提案しただけだ。
彼女はNOを自由に言えた。

引っ越さないこともできた。
あそこ、に行かないこともできた。

勇気を出して、知り合いのいない地域にやってきたのは彼女だ。
あそこ、に行ったのも彼女だ。

彼女は、幸せになれる可能性があるよと誰かが提案した行動を、自らの意思で選び行った。

彼女がその日、新婦席にいたのは、彼女自身がしたことだ。

私は、彼女に幸せになって欲しかったので、その日、笑顔の彼女を見て、ほっとしたし嬉しかった。

そして今、時折SNSで、お母さんになった彼女の幸せそうな様子を見て幸せな気持ちになる。