ロケ地

私は写真を撮るのが上手くない。
やらせで作り込んだ小さいもの、これは何を撮ったのかというものを、わけわからなく撮るのは撮れる。
そういうのは、我が家のベランダで作れる。
シャワーを使ったり、食器を使ったり。
庭に落ちてる葉っぱや、ジュースにコップ。
家にあるもので作る。

しかし、風景が下手くそ。

寝込んで始まった動画作り武者修行には、素材が必要だった。
写真は、知り合いの写真家さん、そして夫が撮影している。

たまたま、この2人はどちらも建築が本業で、面白いことに、似たような目線の風景写真を撮る。
建築目線があるのだろう。
世界を眺めている目線が、私とは違って、2人の写真は視野が広い。
端っこの方まで目が届いている。

夫が写真を撮りはじめたのは、そもそもは、私が外出できなかったからだ。
夫は、「あなた、ひとりで暇でしょ?(夫は単身赴任中)代わりに外に出て写真撮ってきてよ」、という私のお願いを聞いてくれた。


それで、新しく夫婦の会話に、ロケ、という単語が登場した。
ロケに行きたいんだ、と、私。

一緒に行って、私の指示したように写真を撮って欲しい。
私は指示はできる。
ただ、撮れない。

緊急事態宣言の解除を、私は心待ちにしていた。
次の波があるかどうかはわからないが、次の波が来たら、私たち夫婦の住む場所は、また確実に巻き込まれる。
夫は再び帰れなくなる。
運が悪ければ、私はまた寝込む。

だから、緊急事態宣言が解けてから、渡航禁止が解けるまでのわずかな期間を狙うしかないと思った。
素材を貯めておく必要がある。
夫が大阪に帰れる間に。


夫は絵がうまい。
夫が幼稚園の時に描いた絵は、私が小学六年生の時に描いた絵より、はるかにうまかった。
私の子供だったら、私は夫を絵画教室に放り込んだと思う。


カメラマンとしての夫の技術は知らないが、しかも、撮影はスマホなのだが、私は自分のよりバージョンが新しい最新のiPhoneを下心満載でプレゼントした。

恩着せがましく言ってみたが、ようは、自分が欲しい写真が欲しかった。
夫は無邪気に喜んでいたので、みな幸せで結構。


季節は太陽が美しい時期。
雨も降ってくれるかもしれない。
理由は知らないが、今年の空は、子供の頃に見た空のように美しい。


私は、ロケ地を探しはじめた。
近場のね。