オックスフォードものがたり

オックスフォード。

ゴールデンウイークのうち3日間を、モデルハウス巡りに費やした夫婦に、奇跡のようなことが起きた。

「この家がいい。この家に住みたい。」

2人の意見がぴたりと一致した家が登場したのだ。
非常に都会的な作りで、生活感が排除されたその家には中庭がある。

私と夫の趣味は異なる。
ぴたりと一致したことが奇跡だ。


そして、夫は建物の作り、構造に夢中になった。
意外なことに、彼は私より盛り上がり、モデルハウスの写真を撮って、スマホの待ち受けにまでしていた。
さらに建築雑誌を買って研究するとまで言い出した。

夫は、大学卒業後、ずっと建築に関わる仕事をしてきているが、別に仕事が好きだかどうだかわからないと言っていた。
再会した頃は悩みきっていた。

夫の夢中な様子をみて、私は「建物が好きなんだね」と言った。
モデルハウスを見に行きたいと3日も行ったのは、夫のリクエストだ。

神奈川にあるモデルハウスを見に行きたいとまで言い出したが、これは冗談のようだった。


ずっと好きなことを仕事にしてきたんだね、と私が言うと、うん、と夫は照れくさそうに笑っていた。

働き始めて25年、疲れたサラリーマンだった夫は、ついに、好きなことを仕事にしている人になった。
彼がずっと続けてきたことは、好きなこと。

まあ、よかった、私のオックスフォードは、まだ存在しないけれど、夫をとりあえず幸せな気分にできたと思った。

私好みの願いを叶える行程だ。
関わる人が、どんどん勝手に気づいたり、勝手に幸せになったりするのがいい。
私は何もしない。
私はただ、自分のわがままな願いを貫くだけだ。

それが、私の好み。


そしてまた、私は強力な協力者を得た。
夫は建築のプロだ。

オックスフォードにぼったくられる見積もりも、手抜き工事もありえない。
夫は設計図が読めるし、原価も行程も把握している。

私は建てる行程には興味がないが、夫が好きなのは建てる行程だ。
おそらく嬉々として参加してくるはず。
それは、今やはっきり確認された彼の好きなことだからだ。


この家がいい。

そうなったあと。

この家が似合う街並みはどこだ?と、私の中に別の視点が生まれた。

私が非常によく知る街並みが浮かんだ。
知りすぎるくらい知っている街並みだ。
そこが嫌で、かつて遠い昔に、そこを出て行くことばかり考えていた場所にある街並みだ。

恐ろしいことに、その街並みは、私が持つ地理的に必要な条件を兼ね備えていることに気がついた。
空港からも、新大阪からも20分圏内であること。

おしゃれなカフェや公園も近くにたくさんある。
駅からも近い。
大阪の中心部から電車で13分。

その昔、そこは高級住宅地だった。
今はほどよくカジュアルな雰囲気になっている。



私は帰るのだろうか?と、ふと思った。
私のオックスフォードは、私が生まれ育った地域に建つのだろうか?