チヨミさん

ちょっとYさん、聞いてちょうだい。

夫の母のチヨミさん(仮名)が言った。
チヨミさんは一人暮らし。
夫の父は数年前に他界している。
彼女は自立した老人を目指すと言って、90歳以上の人が書いた老後の本を読んで研究している。

「ちょっとYさん、聞いてちょうだい。
 昨日ね、お父さん(チヨミさんの夫)とおばあちゃん(チヨミさんの母親)が夢に出てきてね。」

私は、あら、それは良かったですね、と言った。
チヨミさんは「とんでもない!」と言った。
「死んだ人が夢に出てくるなんて、気味が悪いったらありゃあしないわ。」

私は、飲んでた紅茶を、ぶっと吹き出しそうになった。
普通、せめて夢で逢えたら・・・とかになりません?と聞くと、「とんでもない。気持ち悪い」とチヨミさんは真顔で言った。

しかし、チヨミさんは、飼っていた猫(数年前に夫の父とだいたい同じ時期に亡くなった)が夢に出てきた時は、とても嬉しそうにそのことを言っていたのを私は覚えていた。
猫ならば嬉しいのだ。

チヨミさんと、夫の父は、本当に仲のいい夫婦だった。
彼らは大恋愛の末に結婚した。
2人が独身時代に交換した日記を読んで、私はいたく感動した。

しかし今、チヨミさんは、夫の父のお墓まいりは決まった行事の時にしか行かない。
一人暮らしを謳歌している。

猫のお墓まいりにはしょっちゅう行く。

不思議なもんである。