好きは全てを乗り越える

君は誰かを本当に好きになった時、その人のことを何パーセントは好きで、何パーセントは嫌いか考えるかい?
誰かを好きになると、その人の欠点まで許せてしまうことはないかい?
好きには全てを乗り越える力があるんだよ。

君がもし、誰かの力になりたいと考えているなら、相手を好きになる努力をしてごらん。

その時、君は自然に、許すこと、受容すること、寛容でいること、相手の立場に立って考えてみること、そういうことができるはずだよ。

騙されたと思って、好きになる努力をしてごらん。
好きは全てを乗り越えるんだよ。



これは、20代の後半に、私が心理学やカウンセリングの勉強を始めた初期に、指導のM先生から教わったことだ。 

すっかりおじいちゃんのM先生のボトムスは、いつもジャージ、そして頭にはハンチングをかぶっている妙なスタイルだった。
手にはロザリオを持っていることが多かった。

当時は気づいていなかったけれど、彼の声は、トランスボイスという催眠療法で使う声だったような気がする。
私はそれに、クリーンランゲージを勉強し始めた後、録画されたデイビッド・グローブの声を聞いて気がついた。

誰かの声と似ているな、と思った。彼の声は懐かしい感じがする。
けれど、私は最初は気がつかなかった。
20年近く前に聞いた声の主が最初は浮かばなかった。
やがて、ああ、M先生の声だ、と私はきづいた。


「好きは全てを乗り越える」というフレーズは、当時の私には意味がよくわからなかった。


だけれども、そこから、私は努力した。

まずは、もうひとつ、同時に教わったことから手をつけることにした。

「世の中は、好きか嫌いの二択ではないんだよ。なにかを分ける時、好き、嫌い、普通またはなんとも思わないの三択を使ってごらん。
人も同じだ。
好きな人、嫌いな人、普通の人。
考えてみてごらん。
ほとんどの人は、君にとって普通の人だと思うよ。
まずは、嫌いな人を普通の人にするところからやってみてごらん。
できそうかな?」


二元論で物を考えるな、と、彼は教えたわけだったが、当時、私はそれには気づかなかった。


そして、ただ、努力した。
嫌いにならない努力。
普通にする努力。


「お父さんとお母さんがあなたに与えた物の考え方があなたを苦しめているなら、あなたはあなたで、自分の物の考え方を生み出していくしかないんだよ。
生きている時代が違うからね。
お父さんとお母さんにうまくいく物の考え方が、あなたにうまくいくかはわからないんだ。
ただ、自分によかったことを親は教えるからね。誰も悪くないんだよ。
自分でやってごらん。
できますか?」


今朝、M先生の顔が浮かんだ。
そして、これらの言葉も浮かんだ。

そういえば、今くらいの時期に、M先生は亡くなった。


先生、本当だったよ。
先生。

先生、できたよ、と私は思った。


そして、きっと先生が生きていたなら、先生もきっと使ったに違いないやり方の使い方も覚えたよ、と思った。

そして思った。

先生。
先生が言っていたことを、全部自分でがんばらなくても、誰かに助けてもらうことができる方法を覚えたよ。

変な質問を使う方法なんだよ。


そして、先生、最近、それを上手に使えるようになりましたって、認めてもらえたよ。
英語でもできるようになったよ。
そのやり方が好きだったから、最初、英語はよくわからなかったけど、三年間、がんばれたよ。


先生。

好きは全てを乗り越えるって、本当だね、と思った。
そして、M先生に伝えたくて、少しだけ泣いた。