栄養ドリンク、フォントの話

昨晩、私は、少々、疲れていた。

疲れていたところに、グラフィックデザインの打ち合わせをした。そして、そこで行われた会話で、私は元気になった。


私が打ち合わせ相手でもあった友人とした会話は、「フォント」の会話だった。

文字のデザインには、それぞれ、名前がある。
文字のデザインの名前が、フォント名。

誰もが見る有名どころは、MSゴシック、MS明朝、メイリオ、そんなところでしょうか。


私と友人は、Helveticaが好きだとか、Futuraはほんとのところなんて読むんだとか、どうして高級ブランドに使われているフォントは、結局、昔からあるフォントなのかとか、そういう話をわいわいした。

お互い持っている本を引っ張りだしてきて、「この本は!」と自慢しあったりした。


私はデザインの話をするのは好きだ。
特に、同じように、仕事にしている(または過去にしていた)人と話をするとワクワクする。
楽しい。

理由は、仕事にしている人が持っている共通認識が理由だ。

「デザインには正解がない」がそれだ。

好き嫌いはある、好みはある、得意不得意とするジャンルはある、個性もある、けれど、この世にあるデザインのどれ一つとして、不正解はないと、誰もが認識している。

だから、好きに意見が言えて、とても楽しい。
だっせえと、遠慮なく言える。
相手が、同じ認識を持っているとわかっているから。

ただ、それは、だっせえと発言する人の「感性」で、ダサいだけであって、デザインを否定しているものではないということ。
これは、かなり楽。

クリーンランゲージでいうところのクリーンな感じ。


私はデザイン業界の出身ではないので、「フォント」や「色」の話を「楽しいとお互いが感じて」延々と続けられる相手は、ほとんどいない。

もう一人いるが、その二人だけだ。

そもそも、その日の話の発端は、私がある場所のロゴに使っていたフォントを相手が「なんじゃ、そのフォントは」と笑ったところから始まった。

私が使っていたのは、新しく登場したふざけた名前がついたフォントだった。

「これはですねえ」と私は鼻高々に新しいものを得意げに説明し始め、そして、そのフォントは却下された(笑)

でもね、面白いのです。

否定されたところから始まった会話でも、「フォント」の話は、楽しかったのです。
それそのものが、私は好きだから。

そして、私は、すっかり元気になれたのでした。


会話の中で、相手はさりげなく、私が知らないと思われる専門知識を教えてくれたりする。
これは、この10年、ずっとそうだったのです。

ケタケタ笑ったり、おお!と驚いたりする、友人との会話の中で、私が覚えたことは非常に多いです。


どういう巡り合わせかはわからないけれど、私にデザインの仕事が入り始めた時、(本人はデザインをしているとすら気づいていなかったとき)、すでに、その人は、私のそばに登場していたのです。

元グラフィックデザイナーが、グラフィックデザインという名前にすら気づいていないピヨピヨグラフィックデザイナーのそばに。

恵まれすぎていたかもしれません。


そして、今朝、ふと思ったのでした。

今、考えたら、私、結構、勉強してきたかもしれない。
12年やってりゃ、そりゃそうだよな・・・と。

印刷については、印刷屋さんが教えてくれたし。
入稿しても、入稿しても、「あれができてません」「これができてません」と、データ不備で差し戻され続けた日々の懐かしいこと。オンラインで発注しているのに、まあ、印刷やさんから電話がかかってくること。

わかる人にはわかるでしょうが、どれくらい何も知らなかったかというと、RGBで、印刷物を入稿しました、最初(笑)

印刷物はCMYKだ!



私は勉強しているつもりは全くなかったけれど、結構勉強してるな・・・と、本棚の配色やデザインの本を見て、思ったりしたのでした。
ただ見るのが好きだから、使いもしないジャンルの配色の本や、使いもしないカラーチャートや、使いもしないデザインサンプルの本。

暇さえあれば眺めている、デザインが集まっているSNS。

そして、暇さえあれば、探しているフォント。

「勉強する時間」というカテゴリーに入らない時間の中で、わあ、綺麗だなあ!とか、これはないわ、とか言いながら眺め続けた頭の中のデータのストック。

街を歩いて、貼ってあるポスター、看板、配られているチラシ、パンフレットをジロジロ眺め続けたのも、単に面白かったからだけれど。

勉強していたんだな・・・と、私は、今、気がついたのでした。


街の中に、インターネットの中に、溢れかえっていた、惜しげもなく自分のもつセンスを分かち合ってくれていた一流の人々に、自分は教えてもらっていたんだな・・・と。

そして、細かい技術的なこと、どうしても必要な知識は、見かねた友人が、ぽつりぽつり、ヒントを与えてくれていた。


友人が協力してくれた理由は、いつも同じだった。

「綺麗なものは、私も好きなので」だ。


時に、まじか〜・・・とため息をつきながら、納品していることもある。
クライアントの意向が、ため息な時もある。
自分の感性とはまるで違うこともある。

個人的にはありえない色使いのものを作らなくてはいけなくなって、涙しながら納品したこともある(趣味でやってんじゃないので、まあ、そういうこともある。笑)


でも、やっぱり、楽しいなあ。


なんで、この仕事を続けてるのか、よくわかんなかったけど、デザインが好きということではなく、色や文字の形や、なんかそういうのが好きなんだな・・・と私は思った。


そして、私は、自分が元気になれる話題をもう一つ手に入れることができた。
そして、その話で元気になれるもう一人の人も見つけた。

フォントの話。


疲れたら、フォントの話をしよう。

栄養ドリンクくらいの効き目はある(笑)