PCR検査*4

 

11:30


名前を呼ばれて、医師の診察。


若い女性のお医者さん。

30代前半に見えた。

看護師さんもお医者さんも、若い人で回しているようだ。


そりゃ、そうだな。


お医者さんは、肺の音を聞いて、喉を見て、「熱だけで、あとは、問題ないですね」と言った。

「どうしましょうかね、PCR検査だけしておきます?どっちでもいいですけど」と尋ねられ、私は「なんか違うような気もしますし、どうせ判明したとこれで自宅療養だから、本人的にはあんまり意味ないけど、会社がしてこいというので、検査しないと働かせてもらえないからお願いします」と言った。


これは朝から一悶着あったのだ。

私は病院に行きたくなかった。

どう考えても、PCR検査所が、飲み屋さんなどよりダントツに、今、一番感染の危険が高い場所だ。

集まってくるんだから、もう。


私に濃厚接触者はいない、私の周りで症状が出ている人もいない、二週間、私が家にいれば済む話だから、行って感染するのは嫌だという私と、後から責任問題になるのを避けたい管理職の人との間で、もめた。

どっちにしても、二週間、バイトは休みだ。

PCR検査は確実じゃない。


私は、この場合、私が二週間過ごす精神状態が変わるだけで、治療があるわけじゃなし意味がないと思ったが、管理職の人がかわいそうになって、受けることにした。


(怖いんですよ、しばらくしたら重症化するかもしれないと思いながら過ごすのは。知らずに二週間のんびり家にいるのは、うんと楽。行動は同じなのだから、周りも心配するし、自分も精神的に楽でいたい。)



話を聞いたお医者さんは笑いながら、「じゃ、しときましょうかね。お薬は熱冷ましは持ってますか?」と尋ねた。


私は、はい、と言った。


お医者さんは「もし自宅待機中、もしくは陽性だとわかって自宅療養中に、調子が悪くなったら、うちに来てください。診ますから」と言った。


私は「直接?」と聞いた。


お医者さんは、「そう、保健所には連絡しなくていいから直接来てください。あなたの診察はうちでしてます。ちゃんと診ますから、うちに来てください。じゃあ、検査は看護師がしますので、また待合室でお待ちくださいね」と言った。


待合室に戻ると、また、おじさんが咳をした。

このおじさんの検査を最優先で早くしてあげてと、私は思った。


待っている間に、別々に新たに若い女の子が2人、待合室に入ってきた。


しばらくして名前を呼ばれて、最初に血圧を測った部屋に入った。

仕切りがしてあり、壁に向いておいてある椅子に座るよう言われた。


看護師の若い男性が、「今からインフルエンザ検査みたいに、鼻の奥に綿棒を入れます。ちょっと痛いです。くしゃみが出そうになると思いますが、我慢してもらえると幸いです」と後ろで言った。


そして、マスクを鼻からだけずらして上を向いたところに、看護師さんが右の鼻に綿棒を突っ込んだ。


痛いのとくしゃみを我慢するのが辛かった。

顔をしかめていると、看護師さんが「その気持ちはよくわかります。僕も数えきれない回数、受けてるんで」と言った。


綿棒が抜かれて、私はけほけほと咳をした。

「これ、インフルエンザのより痛い」と私は言った。


看護師さんは「そうなんですよね、綿棒の先がね、コロナの検査用は優しくできてないんですよね」と笑った。


そして、今度は、左の鼻に同じことをした。


私は、この人たちは、ワクチンも打たずに一年これを続けてきたのかと感動した。

たくさん、人のくしゃみも浴びただろうな。



検査が終わると、看護師さんは言った。


「検査結果は、数日でわかります。今は混んでいるからもう少しかかるかもしれません。もし陽性だったら、保健所にも連絡しますので、保健所からも連絡がいきます。陰性でも陽性でも、必ず連絡はしますので、しばらくお待ちくださいね」


私は、「陽性だったところで、自宅療養ですよね」と笑った。


看護師さんも「まあ、そうでしょうね」と笑った。

それから看護師さんもお医者さんが言ったように「調子がおかしいと思ったら、すぐ、うちに来てください。入り口のインターホンを押してもらえば誰か出ますから」と言った。


私が行った病院は、家から徒歩5分の、流行病の人も治療している二次救急受けつけ病院だ。



そして、私は再び、病院の玄関に戻り、インターホンを押して、「会計をお願いします」と言った。

病院の玄関前には、若い女性が別々で3人立って、受付票に記入していた。

赤ちゃんを連れたお母さんもいた。


会計の人は、ささっとお会計をしてくれた。

1910円だった。

PCR検査は無料で、その他の部分は保険適用で有料。

薬は出なかった。



帰り道、私は、なんだか胸が温かくなっているのに気がついた。


「もし悪くなっても、うちで診ますから」という一言の心強さを感じた。

去年、私は、どこでも診てもらえない体験をしている。(去年の4月の記事参照。)



また家から出られなくなるので、陰性であってもらいたいが、もし、自宅待機から自宅療養に切り替わっても、お医者さんがそこにいるから気分的にはだいぶ楽そうだ。


陰性を希望するが、まあ、心温まったのでよしとした。


そしてそれから。


胸を温め、希望を持たせることができるアスリートは、今はグラウンドにはいない。

金メダルをもらうこともない。

医療現場に、希望の光たちがいる。


2020TOKYO OLYMPICSの金メダルは世界中で戦う彼ら全員に。

私はそう思った。



命や暮らしがあって、話は全部それからだ。

それらのための経済だ。

国が潤っても、国民が潤わないなら、それは経済じゃない。

ただの税金搾取だ。


ポカポカした胸で、私はそう思った。