私を救ったことば、もう一つ。
ほら見て、と言って、その精神科医は診察室の彼の机の引き出しを開けた。
僕はね、朝から晩まで、毎日毎日、おかしな人たちと話し続けてる。
君はまだいい。
話が通じる。
だんだんねえ、何が普通で何が普通でないか僕にはわからなくなってきてね。
僕も時々、しんどくなる。
それで、僕も薬を飲んでる。
君と同じだね。
いい?
君はもう知ってるね。
しんどくなる少し前に、自分の体がどういう反応をするか。
その反応が出たら、必ず、僕のところへいらっしゃい。
君に会う薬を僕は知ってる。
薬をちゃんとしたタイミングで飲めば、寝込むほどしんどくならない。
いくらでも薬を出してあげるからね。
胃が悪い人は胃薬を飲むよね?
心が疲れたら心の薬を飲む。
胃が悪いひとと君は何も違わない。
同じだからね。
鬱病には誰でもかかる。
一度かかると鬱病は根治するのに時間がかかるから、君はしばらく君の体や心と付き合っていかなくちゃいけないけどね。
必ず、治るからね。
しんどくなる少し前に、必ず、僕のところへ来なさい。
最後の診察の日、その精神科医は言った。
そして、お守りだと言って、抗うつ剤を2回分だけ私に渡した。
持っていなさい。
大丈夫だからね。
なんにもおかしなことじゃないよ。
しんどくなったら薬を飲めばいいんだ。
君の薬は胃薬と同じだ。
君は弱いわけじゃない。
胸を張って、生きていきなさい。
人生はここからだよ。
必ず、治る。
必ず、治る、と先生は私に魔法をかけた。
そして、先生の言ったとおり、それは治った。
父はあの頃言った。
また、まあ君に一番似合わない病気になったもんだね。
どんなにポジティブな人でもかかる。
それが鬱病だ。
そしてそれはもう、遠い過去になった。