モデルなき結婚

ある家庭のある夫の母は、フルタイムの看護師として65歳まで働いていた人だ。

その夫や妻が育った時代は、専業主婦が大多数をしめた時代だが、両親共に働き、父親も家事をする家庭で育った彼は、一通りの家事が普通にできる。
流しを掃除すれば、シンクの生ゴミのところまでピカピカに磨き上げる。
ゴミの分別はパーフェクトだ。
お風呂掃除は排水溝まで磨きあげる。
お風呂沸いたよ、と、先に入ったら?と妻に言う。
彼がする家事は「お手伝い」ではない。

彼は、子供の頃から普通にやってきているし、父親もそうしていたのを見てきているので、家事に対して心理的負担はないらしい。
お風呂沸いたよ、も、彼の実家の習慣を継承していると思われる。


彼の妻は、料理以外の家事は残念な感じだ。
彼女は料理はできる。
ペットの世話、トイレ掃除、料理が彼女の担当だ。
トイレ掃除だけは、彼女は子供の頃から自分の仕事だったため、こだわりがある。


彼女は、両親の方針で、女の子だから、という育てられ方はしなかった。
良妻賢母に女性の幸せはない、というのが、彼女の両親の考えで、彼女の家庭は、質実剛健が教育方針だった。
強くたくましく。

そういうわけで、女の子だから家事ができなければいけないという刷り込みが、彼の妻にはない。
彼女の親が刷り込まなかったからだ。
夫が家事をするのを、彼女は当たり前だと思っている。
得意な人が得意なことをすればいい。
感謝はしているが、それは、男性が家事をしていることに対してではない。

彼女は彼女で、彼女が得意とすることで、夫が苦手とすることを一手に引き受けており50/50だと思っている。


妻が親から刷り込まれたのは、これからの時代は、女性も自立していなければならないということだ。
自立した女性を育てることに、彼女の母親は情熱を注いだ。
彼女の父親は、彼女が感情だけでなく、論理的に話せるように、いつも話をもっていった。
社会に出た後に男性と対等に話せるように。

彼女の父親は、彼女がまだ結婚する前に、「専業主夫になりたい男性も今はおるやろ。探せ」と彼女に言った。


彼女の夫は、彼女が成功する日を信じて、夢見ている。

彼には、女性の成功についての妬みがない。
彼の母親が、キャリアウーマンだったからで、彼は、母親が好きで、その母親に協力していた父親の姿を見ながら育ったからだ。
彼は、父親のことも好きだった。


男性は仕事の邪魔にはならない。
最大の理解者、協力者となりうる可能性もある。


悪妻と評判の高いこの妻は、夫からの評価は低くない。

彼女と結婚してから、夫の仕事がスムーズになり、彼の仕事がキャリアアップしたからだ。
妻の仕事の分野を、彼女は家庭に持ち込んだ。

それが、夫が、最も必要としていたサポートだからだ。
男性が女性に求めるサポートも、家事育児とは限らない。


この夫婦は実在する。


世の中には、さまざまな夫婦がいる。
正解はない。

2人や家族が幸せならそれでいい世界が、家庭の中だ。

モデルタイプは実のところ、ひとつもないと思われる。
全ての家庭が持つ条件が違う。

モデルタイプを見ずに、モデルを生み出すことが、きっと現代の結婚がうまくいく方法なんじゃないかと、ふと思った。