ヒビの入ったマグカップ: PRO
ひびが入ったマグカップ。
ひびはどんどん深くなり、飲みものを入れると中から漏れだしてきます。
クライアントは手が濡れるのが嫌です。
それを捨てて、新しいマグカップを買えばこの問題は解決します。
他人が見れば、こんな簡単な話はありません。
しかし、クライアントはこんな簡単なことができません。
簡単ではないからです。
私が、クリーンランゲージやシンボリック・モデリングが好きな理由は、マグカップを捨てさせようとはしないところです。
ヒビを直そうともしません。
私たちは、クライアントの世界から何ひとつ取り除こうとはしない。
クライアントの世界はすでに完璧だ。
在るようにクライアントの世界はあり、その世界に存在する全ては、それぞれ、完璧な働きをしている。
これは、シンボリック・モデリングを学ぶ方に覚えていてもらいたい、シンボリック・モデリングを作った人たちの価値観です。
だから、クライアントの言葉を、問題と望みに分類しても、問題を問題だとは特定はせず、「あたかもマグカップのひびが問題であるかのように」それを扱います。
新しいマグカップが欲しいとクライアントが言えば、どんなマグカップがいいのか明らかにし、それを手に入れるためのリソースを展開しと、その作業を手伝います。
けれど、ヒビが入ったマグカップを捨てる手伝いはしない。
新しいマグカップと、ヒビが入ったマグカップに関係があるかどうかすら、わかりません。
クライアントは、新しいマグカップが欲しい理由が、今のマグカップのヒビと思っていることが多いですが、経験上、おそらく、ほとんどの場合、そこに関係はありません。
ヒビが入る前のマグカップが、クライアントがマグカップを捨てない理由を知っている可能性はあります。
だいたいの場合、それを知ることは、クライアントの役に立ちます。
マグカップを捨ててしまったら、それは手に入りません。
私たちは、何も捨てようとしない。
クライアントの世界から取り除こうとはしない。
問題ですら。
私たちがしていることは、増やすこと。
シンボリック・モデリングは、足し算の技法です。
今まだここにない、新しい何かを生み出すこと。
それが、私がシンボリック・モデリングを好きな理由のひとつです。
そのままでいいよ、でも、変わりたくなったらいつでも教えてというスタンスが好きです。
というわけで、ファシリテーターに必要な要素のひとつは、根気と忍耐力ではないかと、私は考えております。
まあ、これは他の技法と同じですね。
ヒビが入ったマグカップを握りしめて、手が濡れるのが嫌!というクライアントが、マグカップとの関係をどうにかせんと手は濡れまっせということに気づくまで。
焦らずとも、クライアントの世界は、すでに、在るようにあると信じられるかどうかはポイントになるかなと思います。
クライアントは、手が濡れても、マグカップを使い続けられたのだし、クライアントは、手が濡れるのには慣れてますし、一時的な対処方を、おそらくクライアントは持ってるでしょうから。
こんな話は、2日目にしようっと!