注意を向ける場所

 りんご、りんご。

りんごは あまくて おいしいよ。

あまい あまい あまあい りんご。

りんごは あまくて おいしいよ。


本日は、8歳の詩人が作り、学校の宿題の日記に書いたとある詩から話を始めます。


詩人は私です。

国語の授業で習った「し」に魅せられた8歳は、毎日、宿題の日記に詩を書きました。


さて、りんごの詩は、日記上では、私の初作品でした。

絵が上手な図工の先生、担任のハナフジ先生は赤い文字でこうコメントを書いています。


「これでは、りんごがおいしいことしかわからないわよ。もっと ほかのことも ながめてみなさい。」


ハナフジ先生は、他の事も「眺めてみるよう」、私に提案したのです。


ハナフジ先生が、クリーンランゲージを知っていたなら、先生は、以下のような質問をしたはずです。


8歳の詩人の「注意が向いていない(注目していない)」「場所」に、ゆかりちゃんの注意を誘うために。

りんごの「形や構造」についての情報を得られるように。


わかりやすく例えるならば、8才の詩人が、りんごをあたかも絵に描くように、言葉で描写するために、りんごを体験できるように。


8歳の詩人は、りんごについて他のことも知っているはずですが、彼女のりんごに対する注意は、「あまくておいしい」という特徴だけに向けられております。

しかし、りんごには、もっとたくさんの特徴や働き、描写を豊かにするために役に立つこと、などがあり、それを知ったり、気づいたりすることは、詩の描写を豊かにします


この場合、詩は詩人の人生上に存在しています。

詩が豊かになることは、詩人の人生を豊かにします。



ハナフジ先生がクリーンランゲージの質問をしていたら、こう問いかけたかもしれません。


そのりんごについて 他には何かある?


そのりんごは どんなりんご?


そのりんごに 大きさや形はある?


そのりんごは どこにあるの?


あまい について 他には何かある?


そのおいしい は どんなおいしいなの?


りんごが あまくておいしいと 何が起きるの?


などなど。

私なら、まだまだ質問を作れます。



ファシリテーターの仕事のひとつは、りんごが甘くて美味しいことしか気づいていないクライアントに、その他の視点から、りんごを眺めてみないか?と探求の招待状を送ることです。


このりんごは、クリーンランゲージの質問の中では、Xと表現されています。



人生に起きる出来事や物事は、りんごよりも複雑な構造をしています。

りんごひとつで、話はすみません。

バナナもみかんも、ぶどうも、お皿もテーブルもそこにはあります。

人がりんごについて語るとき、人は全てを一緒くたにして語ります。


シンボリック・モデリングのファシリテーターが最初にできるようになる必要があることは、話をシンプルにすることです。


りんごについて話をするのに、周りのものから、りんごを切り離して、りんごだけに注意を向けられるように、クライアントを誘ってみます。


りんごとみかんの話を一緒にするより、りんごだけの話をする方が、考えやすいからです。


これを、分化、といいます。


そうして、その人がまだ注意を向けていない場所に、その人の注意が向くように誘います。


注意をどこに向けるかは、クライアントの発した言葉の中から選びます


この時、注意を向ける場所、クライアントを送り込む場所が、Xです。


そして、Xを選ぶ基準に使っているのが、「クライアントの望みを叶えるために、Xを探求することに矛盾は生まれないかどうか」です。


基準を判断するのには、PROモデルというシンプルなモデルを使います。

ファシリテーターの価値観世界観で、勝手にクライアントの望みを決めつけないために。

ファシリテーターが思ういい場所に、クライアントを誘導しないように。


クリーンランゲージは導きません。

ただ、クライアントを探求に送り出します。

もちろん、その気になれば、いくらでもファシリテーターの望むように、その価値観を押し付けるための誘導質問として使用はできます。


クリーンランゲージの質問も、普通に指示は出していますから。

ただそこに、ファシリテーターの価値観、世界観が混入しにくいように構築されているだけのことです。

ただ、その指示に、クライアントは自由にNOが言えるだけのことです。



全ては、Xの選び方と質問の仕方、質問するタイミング次第です。



8歳詩人が、りんごの詩を書く前に、あれを見ろ、これを書け、と、ハナフジ先生は言いませんでした。


自由に書かせてみて、それから、アドバイスを提案しています。


シンボリック・モデリングは、提案はしません。

その代わりに、質問します。

クライアントが、プロセスも含めて、自分で気づけるように。



.....


その年のクラスの文集に、一年間、担任の先生からの詩のトレーニングの末に私が書いた家の窓から見たメキシコ・シティの夜景を描写した詩が掲載されています。


......


空の上からながめたら

せかいはどんなかしらね。

夜はとてもきれい。

オテルデメヒコも光ってる。

ピカーリコ、ピカーリコ、光ってる。

とっても しあわせな気もちになる。


ピカーリコ、ピカーリコ、光ってる。


......


8歳詩人の「表現力」は、明らかに向上し、視点が加わり、豊かになり、ユニークな表現も登場しています。



クライアントの世界がそうなるように、ファシリテーターは質問します。


このとき、シンボリック・モデリングのファシリテーターは、「望みが叶った世界」が、より豊かで、よりクライアントにとって得るものがあるように、と、ファシリテーションします。



そして、シンボリック・モデリングがアウトカム志向な理由です。

ほとんどの場合、クライアントは、自分の望みを知りません。

それを問いかけられたことは、過去一度もない人もたくさんいます。


だから、問いかけます。

「あなたは 何が 起きてくれたら 好いのでしょう?」


誰もその人に問いかけなかった望みを、その人の中から引っ張りだすために。


そのために その人や その人の世界が変容していくために その人が探求するXの手かがりを クライアントが得ることができるように。


望むことに クライアントの注意が向くように、望みを探求しませんか?と望みがある「場所と空間」へ向かう招待状を手渡すために。