N家の呪い

私が育ったN家には呪いがかかっている。
この呪いは強烈で、全く解ける気配はない。

古くは、誕生日、クリスマス。
近いところでは、私の結婚式。

おめでたいイベントで、その呪いは発動する。
おめでたいイベントでなくても、たまに発動する。


家族だけにかかった呪いかと思っていたが、私の結婚式では、友人にまでその害が及び、友人はそのために結婚式に少々遅刻し、申し訳なさそうにしていたが、私は、それは、N家の呪いだと知っていた。


つい先日も、その呪いは発動された。

ある日、私が実家に帰っていた時。
お姉ちゃん!呪いよ!と台所から母が大声で叫ぶ声がした。

行ってみると、母は私が手土産に持って行ったケーキの箱の上蓋を持ち上げて、大笑いしていた。

あなた、これ、どうやって持ってきたの?と言いながら。

ケーキの箱の中身はチョコレートのスライスがまぶしてあるホールケーキだったが、チョコレートのスライスが大暴れした後があり、いまや、ケーキからは完全にずり落ちていた。


ちゃんと持ってきたけどね〜、また呪いだ呪い、と私は笑った。


N家にかかった呪いとは、ホールケーキが崩れる呪い。
ちゃんと運んだ時でさえ、発動する強烈な呪い。

私は記憶を辿り、そして、ある一瞬、手を振り回したことを思い出した。


ケーキは気をつけてまっすぐに持たなくちゃいけないのよ、と母は言った。

ケーキは気をつけてまっすぐに持つこと。
呪いに勝つために、必要な魔法を伝えるこの言葉は、過去、何度も聞いた。

気をつけて、というところが特にポイントだ。


そして、このポイントを一瞬忘れたために、N家にはホールケーキが崩れる呪いがかかり続けている。

N家の一員は、全員、この呪いを把握しているため、みなそりゃもうこっけいなくらい真剣に、ホールケーキを運ぶのだが、この呪いはなかなか強烈である。


つまり、この呪いは、遺伝子の中にかかった、おっちょこちょいという呪いである。

幸いなのは、N家の人々が、崩れたホールケーキに大爆笑し、呪いを楽しんでいることだろう。