同じ行動 異なる目的

去年の夏、最初にうちに来た猫チェルシーは、とても身軽なおちびちゃん。
その振る舞いは、ずっと赤ちゃんみたい。
私の後をくっ付いて回る。

毎朝の日課は、カーテンを登り、頂上のカーテンレールに飛び移り、レールを一往復ほど走った後、にゃあ!と叫ぶこと。
(そしてその後、降ろして!ともう一度、にゃあ!と叫ぶこと。自分で降りれない。つくづく迷惑な日課である。)


後からやって来たチェルシーより1ヶ月早く生まれていた猫2匹のうちの1匹モニカは、やがて、カーテンを登るチェルシーをじっと眺め始め、自分もカーテンを登ろうと練習し始めた。

ところが、モニカさん。

そのおおらかな性格のせいなのかなんなのか、明らかに1匹だけ、ぷくぷくと膨らみながら成長しており、モニカがカーテンにぶら下がると、カーテンレールが重さに耐えきれず、外れて落ちることに。

私は、モニカ、まずはダイエットやで、、、と言っても無理やわねえ、と、カーテンからカーテンレールもろとも落ちるモニカを慰めた。

それでも、懲りない、というか、おおらかというかなんというかなモニカさんは、毎日繰り返し、カーテンを登り、カーテンにぶら下がってぶらぶらして、カーテンレールと共に落下という事態が続いた。

モニカは、なぜだか、落ちたカーテンレールとカーテンの上に座り、目をくりくりさせて得意げな顔。


しばらくすると、カーテンレールを止めるネジ穴は、ボロボロになってしまい使いものにならなくなり、何度か、レールの場所をずらすはめに。

そしてついに、もうこれ以上、カーテンレールをずらすと、窓にカーテンがかかりません!という事態になり、そこでようやく夫が、ネジを変えよう、と言った。
もっと長いネジで、レールをがっちり固定しよう。


そして、夫は、私のネジコレクションの中から、ちょうどいいと思われる長さと太さのネジを選び、カーテンレールを固定し直した。


モニカは次の日早速、カーテンを登ったが、見事、カーテンレールは壁についたままだった。

よかった!
私は、さあ、モニカ、好きなだけ登ってちょうだい!と思った。

ちなみに、カーテンがぼろぼろになることについては、もう諦めている。
どうしようもなくなれば、買い替えればいい。
レールが落ちなければそれでいい。

というわけで、さあ、どうぞ。



ところが。

モニカは、それ以来、一切、そのカーテンを登らなくなった。


もしかして!

モニカは、カーテンレールを引っ張り落として捕まえる遊びをしていたの?!と、私はそこで気がついた。

だから、落ちたカーテンレールとカーテンの上に得意そうに座っていたの?と。
獲物を見せびらかしていたのか。。。

........

チェルシーとモニカがとった行動は全く同じ。
ただ、その先に何を求めるか、つまり、アウトカムは別だったということ?

チェルシーは、カーテンレールの上を走ったり、カーテンレールの上で叫んだりしたい。
(そして降ろしてもらいたい。)

モニカは、カーテンとカーテンレールを捕まえたい。


同じように見える行動、違う目的。


よくあることではあるけれど、わからないわねえ、カーテンレールを捕まえたい猫がいるなんて(推測でしかないけれど)、わからないものだわねえ、と私が言うと、夫は、はははと笑っていた。


人から見れば、なんでや?と思うような目的に、魅惑されることもある。
モニカはとっても嬉しそうに落ちたカーテンレールの上に座っていたから、モニカには、それは価値あることだったのだろう。


そうして、大きすぎる獲物を狙う時や、誰かにとってその行動が迷惑だと感じられる時、だれかの思惑に反することがアウトカムだった時、ようするに誰かにとっては問題だった時には、飼い主がネジを変えてしまうように、クレームがついたりやんだりで、行く手を阻まれることがあるのもよくある話。

モニカは、別に、迷惑をかけようとはしていない。

ただ、カーテンがそこにあるのだ。
そしてモニカは猫だから、人間の都合なんて知ったこっちゃない。

猫に聞いたら、窓にカーテンをかけるのは、登るためでしょ?と答えるに違いない。
家の中を見せないようにするため、遮光するため、なんでそんなことが必要なの?と、逆に尋ねられるかもしれない。


どちらにしても、真実は、モニカのみぞ知る。
モニカは人間の言葉を話さないから、全部想像。

もしかしたらチェルシーだって、天井を走りたいという野望を抱いていて、その経過地点がカーテンレールかもしれず。

語らない限り、行動のほんとのとこの目的は、誰にもわかりゃしない。


で、その後モニカはどうしたかというと。

まだネジを変えていない、別のカーテンをよじ登り、ぶらぶらし始めたのだった。


強いアウトカムは、邪魔だてなんてものともしない。
共存しえない異なるアウトカムを持つ二者があるとき、諦めるのはどちらかだけだ。
もしくは新しいアウトカムが生まれるか。


この場合。

はあ。。。

ため息のみ。
猫たちが、早く大人になりますように。
早くカーテンを飽きますように。


先に諦めたのは、人間である。
猫に話は通じない。

そして、より強く願うものがいつでも強い。
カーテンレールが落ちませんようにと、カーテンにを捕まえたい!なら、そりゃ、捕まえたい!が強いわね。


はあ。