違い(2)
夫の母。
彼女は75才。
65才まで看護師として働いたそうです。
今は、週に5日スポーツクラブに通い、社交ダンスや切り絵を習い、読書が好きで、講演会や音楽鑑賞を好み、友人としょっちゅう旅行に行く彼女のカレンダーは、私のものより予定が詰まっています。
忙しい人。
猫も好きで、月に一回くらい、我が家に猫達と遊びにやってきます。
それ以外に、たまに、私は彼女の家にお茶を飲みに行きます。
彼女とのおしゃべりは、政治や経済、それから老後事情、本、音楽など、様々なテーマに渡り、とても面白いのです。
この人はまた、ユニークな人で、わからないことが昔からたくさんあるのだと言います。
私は、非常に気が合います。
彼女には、子供が2人。
1人は私の夫。
基本的に人間に興味がなく、独特なコミュニケーションをする息子。
ただし、この人はなぜだか他人からは好かれます。
私の実家の家族達も、彼のことが大好きです。
もうひとりは娘。
夫の妹は、会社員。
常識的で一般的なものの考え方をする家庭的な人です。
ロック音楽を好みます。
夫と夫の妹は、どちらも非常に口数が少ないですが、この2人は仲良しです。
私は、ちゃんとしている夫の妹に呆れられるのが怖くて(笑)、ほどよく距離をとって彼女とは付き合っていますが、彼女に好感は持っています。
どう考えても、世の中の多数派は、彼女の娘で、彼女の息子は少数派。
私が言うのもなんですが、どちらが変わっているかといえば、夫です。
ついでに夫の母です。
ところが、夫の母は言うのです。
息子はまだいいわ。
まだ普通なの。
娘が変わっていて、宇宙人みたいなのよ。
あの子、変わってるわ。
さっぱりわからないのよ。
(おそらくこの世代の親は、子供を宇宙に飛ばすのが好きです。私の両親は、私を、我が家の宇宙人といいます。理解できないものは、宇宙というメタファーで表現するのでしょう。)
私と夫は、いつでも、家で大爆笑になります。
ねえ、あなたのお母さんは、よもや自分が宇宙人だとは考えてもみないのね、と。
夫も、クスクス笑います。
どう考えても、妹かお母さんか、どっちが変わっているかといえば、お母さんだ。
そして、僕らは(私と夫は)、自分達を変だとは思わないけれど、自分達が多数派でないことは理解している、だけど、彼女には、そもそも、多数派とか少数派とかそういうのはない、と。
夫の母にあるのは、自分からみて、という視点のみです。
自分がスタンダード、標準です。
自分が、理解できるか、理解できないか、
自分が、好きか嫌いか、
自分が、と
全ては、自分が中心の思考です。
それができるようになるために、大金をつっこむ人がわんさかいるなど、彼女には考えられないに違いありません。
なんとまあ、健康的な思考の人かと、いつも思います。
そして、彼女は、夫についても、一ミリも悩まなかったそうです。
夫が中学生の頃、もう亡くなった夫の父が、夫を心配したそうです。
あいつはどこかおかしい、病院に連れていった方がいいのではないかと何度か夫の母に、夫の父が言ったらしいのです。
何がおかしいのかしら?と思って、病院には行かなかったんだけど、仕事も忙しかったし、と夫の母は言っていました。
ともかく、彼女は夫を全く心配しませんでした。
夫は、ほとんど叱られたこともないと言います。
やがて、結婚した後、彼女の息子は、気の強い妻からけちょんけちょんに叩かれることとなりました。
よせばいいのに、彼は妻を抱えていた仕事の悩みの相談相手としたのです。
怒るところしかない!それはこう!あれはこう!あなたいったいどうなってんだ、と口うるさい妻に怯える日々が訪れました。
私達2人共の学生時代からの共通の友人のひとりは、私達を、上司と部下のようだと笑いました。
三年間くらい、そのような日々が続きました。
(今は、夫が私に怒っている方が多いかもしれません。家庭人としての私はポンコツですので、改善はありません。)
挨拶しなさい、大きな声で話しなさい、笑いなさい、背筋を伸ばしなさい、靴は磨きなさい、人は見た目であなたを判断する!
考え方は、その後だ。
地球のやり方がある。
その基本が先に必要だ。
親は何をしていたの、という私の口からでる小言の数々は、かつて、私の母が、私に叩きこんだ数々でした。
私は社会の中で、なぜ、自分がうまくやってこれたかに気がつき、お母さん、ありがとう、、、、と、私に行動を叩きこんだ母に感謝しました。
夫の母に、私はそれらを話しました。
あんた何てことを言うの!と、私の母は呆れていましたが、夫の母は、一緒に面白がっていました。
まるで、自分が育てたことは、もう、忘れているようでした。
しかし、夫は精神的には、非常に健やかな状態で成長しました。
彼は非常に健康的なものの考え方をします。
こちらを得ることの方が手間と時間がかかることを、私は知っていますので、私は夫の母には深く感謝をしています。
続く。