宇宙人の娘

夫と結婚することになった時の話。
最初に二人で挨拶に行ったのは、私の実家でした。

こんなしっかり主張し喋れる人だったのか!と見たことのない夫の姿に驚きました。
彼のそういう姿は、その後、結婚式でもう一度だけ見ました。
私は、彼のここ一発は割とかっこいい、でも、次に私がそれを見るのは、きっと私の葬式の喪主をする時くらいだろうと思いました。 


さて。
夫の挨拶が終わると、父が言いました。


この子の話はまともに聞くと、頭がおかしくなるから適当に聞いた方がいいよ。
この子は宇宙人だから、話が時々、違う惑星の話だから。
いったいどこの惑星の話をしてるんやということが、ちょくちょくある。


夫が、言いました。

いや、僕は、彼女が何を言っているかは、だいたいわかります。


私は、彼らはいったい何の話をしているのかと首を傾げました。
結婚の挨拶の場では、趣味とか仕事とか、もっといろいろふさわしい話があるでしょうよと。


続けて母が言いました。

この子は、小さな頃から、だあっと走っては転んで、私は冷や冷やし通しだったんですよ。
失敗してから考えればいいじゃないとこの子は言いますけど、もう理解できなくて。

そして残念そうに言いました。
私はしつけはしっかりしたんですけどねえ。

母は夫に、自分がいかに大変だったかを訴えました。


重ねて父が言いました。

ともかく宇宙人なので。


ご了承の上、結婚してくださいね、と言わんばかり。。。



その帰り道、あんな挨拶ある?!と私は言いました。

結婚しますと言いに来た人に、娘の苦情オンパレード。
娘が嫌われたらどうするつもりなんだ?!

夫は楽しそうに笑っておりました。

しかし、まあ、父は、一度目の結婚のときは、相手にいきなり、君は結婚についてどのように考えていますか?と小難しい哲学的な質問をしていたから、あなたのことは気に入ったんだと思うと、私は言いました。


翌週、夫の家に挨拶に行った時のこと。
ちなみに、この日は、ここ一発ではなかったようで、夫は、どうしてだろうか、体育座りでちょんと黙って座り、私は引率の先生のようになりました。
仕方ないと諦めた私は、しゃしゃり出て、全部自分が説明しました。


話がひと段落した頃、話をニコニコ笑って聞いていた夫の母が言いました。

この子はまだ普通なんですけど、うちには娘がおりまして、娘も近々結婚しますが、その子は宇宙人です。


そこで始めて夫は口を開きました。
同じことを最近聞いたな、と、ボソっと。
私は笑いをこらえるのに必死でした。


そして、そのあと、実家に電話しました。

私が、お母さん、なんか、彼の家は、宇宙人慣れしているお家みたいだから大丈夫そうと言うと、まあ、安心ね、と母は言いました。



後に、夫の母と話していた時、娘を宇宙人にするのは、娘を尊重し、なおかつ、自分も尊重するための技であるということで、意見の一致をみました。

自分達には理解できないけれど、それを尊重しようとするなら、宇宙人くらいに思わないとやってられないと。
宇宙人ならわからなくても仕方ないと思えるからですね、と私が言うと、そうそう、と夫の母は言いました。

なかなか大変なのよ、宇宙人を宇宙人のままで育てるのは、と夫の母は笑いました。
つい地球人の枠にはめたくなる時もあった、でも、宇宙人のままでいさせようと忍耐したのよねと。


私は、まあ、全員、地球人なのですが、よしとしましょうかね、つまりそれは愛であると結論づけたのでした。