売れない風船
なんとなく、今につながるきっかけを考えていた。
カード作りに至ることになる最初のきっかけ。
潜在的なことや物語的なことはおいておいて、現実的に、今、制作に必要で、私の主たる担当部分のきっかけ。
あの頃、あの頃というのは29才のある頃。
私の一番の悩みは、風船の売れ行きが伸びないことだった。
披露宴で飛ばすバルーンリリースの風船。
環境や鯨の話は、しばし忘れて読んでいただきたい。
(一応、土に還る素材の風船を選んじゃいたのだが。)
バルーンリリースが売れない、何故に、と私は悩んだ。
そして、まじまじと、クライアントに提案している披露宴の演出商品のカタログのバルーンのページを眺めた。
かわいいものには全く興味のない先輩社員のおっさん達の選んだバルーンは、ピンク、水色、白の三色だけで、管理しやすく納品ミスがない構成だった。
楽しくないなあ、もしかしてこれちゃうか?と、私は思った。
バルーンやさんに尋ねたら、風船の色は無数にあり、何色でも仕入れてくれると言った。
私は、バルーンやさんに、全色欲しいと言った。
上司に話したら、ミスが出ると反対されたが、私は押し切った。
私は当時、復職したばかりで、ひらもひら、ペーペーだったが、それくらいはできた。
会社から予算はもらえなかったので、私は、バルーンやさんに頭を下げてお願いした。
「必ず、売って返します。山のように、バルーンを売る。約束します。だから、サンプルで全色5つずつください。」
バルーンやさんの社長さんは、少し年上のやんちゃなお兄ちゃんだった。
「ほんまに売るんやな?」とにやりと笑って、それから、バルーンのサンプルをくれた。
バルーンやさんが持ってきてくれたカラフルなバルーンで、私は、バルーンカタログを作った。
触って選べるようにすれば、選ぶのも楽しいと思ったのだ。
それから、写真の演出商品のカタログのバルーンのページを、バルーンを飛ばしている場面の写真に変えた。
かわいい新郎新婦の写真をもらって。
その後、バルーンの売上は、10倍になった。
そして、そのあと、私は社内で、割と意見を聞いてもらえるようになった。
あれ。
あれが、原点。
あのバルーンの一件がなければ、私は、デザインには手を出さなかった。
ただ、売りたかった。
最初は、風船を。
夢のない話で申し訳ないくらい。
まあしかし、人生はわからんもんである。
「ださいねん」という文句ひとことから、始まったはなしから何がどうなりゃ、こうなるか。面白いなあ。
売れない風船が、私をグラフィックデザインの道に入らせたって変なはなし。