変化。ゆで卵のはなし。
人生が変わることを、大きな出来事や体験を伴い、大きな気づきをえなければいけないと捉えていたり、思い込んでいる人は多いが、それはとても細やかな出来事を伴う小さなことだったりすることもある。
しばらくの期間、私は新しくできた知り合いの家で、時々、料理を教わっている。
その知り合いの家のキッチンは、よく手入れされた調理器具が揃っていて、そのキッチンが何十年もの間、とても豊かな時間を積み重ねたことを、私に伝えてくれる。
私は知り合いのキッチンで過ごす時間が好きだ。
料理は化学だと言う彼女の説明は、私にはとてもわかりやすい。
ある日、知り合いは、おいしいポテトサラダの作り方を教えてくれた。
そのポテトサラダにいれるゆで卵は、レンジで作られる。
私はレンジで作ると聞き、「爆発しますよ!」と言った。
みんなそう言うと知り合いは笑った。
私の年齢、前後10才くらいの関西育ちの人々は、卵がレンジの中で爆発するのを、人気のテレビ番組で見たことがある人が多いのだ。
知り合いは、マグカップをひとつ取り出し、その中にアルミホイルに包んだ生卵をひとついれ、それからマグカップに水を入れた。
そして、レンジで12分。
卵は爆発することなく、きちんとゆで卵になった。
レンジでチンしても卵が爆発しない!と、私は驚きに満ちた。
卵が爆発しないレンジでチンしてゆで卵を作る方法という「私にとって」新しい知識のおかげで。
「私にとって」新しいやり方のおかげで。
そしてそれから、私は、料理するのが楽しくなりはじめた。
独自に改良に改良を重ね、私のポテトサラダはやがて、知り合いから褒めてもらえるようになった。
私はそこで初めて気がついたが、「料理に改良を重ねた」のは、人生はじめてのことだった。
まず私が料理する時、私はレシピを見ることがほとんどないから、同じものは再現されない。
自分の思いつきと舌だけで作る。
私の人生は変化していたのである。
卵が爆発しないことを知った日から。
そして私は、今年の年末、お節を作る母に手伝いを申し出た。
人生初のことに、母は、まだ私は死なない!と言った。
料理作りを誰かと共に楽しむこともまた、知り合いが私に教えたことだ。
知り合いと過ごす時間が、私にそれを「体験を通して」教えた。
細やかな体験が、人生をより豊かにし、別の場所にもそれを広げていこうとし始めている。
人生の変化はさざ波のように広がる。
それは、ビッグウェーブだけがもたらすものではない。
さざ波に気がつくことができれば、人生は毎日、変化の連続だ。
変わり続ける自分がそこにはいる。