ゆかりちゃんと座禅

ゆかりちゃん。

5歳のゆかりちゃんは陽気な幼稚園児だ。
だが、がんとして、お母さんのいうことには納得せず、ごめんなさいを言わないので、しょっちゅう庭の物置に閉じ込められたり、叩かれたり、外に出されていた。

ゆかりちゃんが外に出されていると、前の家のおばちゃんが必ず出てきて、ゆかりちゃんに声をかけた。
「今日は何やったん?」
ゆかりちゃんはおばちゃんにいかに自分は悪くないかを説明したのだが、おばちゃんはいつも笑って
「そりゃあかんわ、ゆかりちゃん。仕方ないねえ。がんばりや。」とゆかりちゃんを励ましてから、家の中に消えた。
たまにおばちゃんは、お母さんには内緒やでと言って、飴をくれた。

冬になると、ゆかりちゃんは、毛布と座布団と一緒に外に出された。
そこまでするなら中に入れてくれればいいのにと、ゆかりちゃんは思った。

お父さんには、「どうしてごめんなさいを言わないんだ」と、しょっちゅう怒られた。
「悪くないのに言わない!」とゆかりちゃんはいい、お父さんは、悪くなくてもこういう時はごめんなさいと言っておくんだ、とゆかりちゃんには意味不明のことを言った。
わたしは悪くない!嘘はいけない!とゆかりちゃんはいつでも頑張ったが、「おまえが、ごめんなさいと一言言えば、話はそれで終わるものを」とお父さんはいつでも、ややめんどくさそうに言った。
ゆかりちゃんにはさっぱり意味がわからなかった。


ゆかりちゃんには別名があった。
口から生まれた子がそれだった。

ゆかりちゃんのお母さんは、よくしんどくなって、よく寝ていた。
ゆかりちゃんは不思議だった。
どうしてうちのお母さんは寝てばかりなのかしら?

口から生まれたゆかりちゃんはお母さんを言い負かすことがあった。
お父さんは、「お母さんはおまえとは違う。おまえは強い子や。お母さんはおまえより弱いんや。お母さんをいじめてはいけない」と言った。

お母さんはため息をつき、「あなたは10ヶ月までは、本当にいい子だった」と言った。
10ヶ月からゆかりちゃんは話し歩き始めたらしい。
お母さんが言うのには、ゆかりちゃんはそこからずっと、はんこうき、なのだそうだった。


ゆかりちゃんには、わからないことがたくさんあった。
なんで?と毎日、頭を悩ましていた。

ある時、ゆかりちゃんのおじいちゃんが、ゆかりちゃんに座禅を教えた。
わからないことがある時は、こうやってな、足を組んで座ってな、目を閉じてな、深呼吸してな、なんで?って聞いてみ。
そうすれば、きっとわかるから。


ゆかりちゃんは、わからないことがあると、言われた通りにやってみた。
ゆかりちゃんにはわからないことだらけだったので、ゆかりちゃんはほとんど毎日、座禅を組むはめになった。


ゆかりちゃんのその習慣は、その後40年弱持続する。
40年弱後のゆかりちゃんは、5歳のゆかりちゃんよりわからないことが減ったので、座禅を組む回数はうんと減った。


そして、ぴったり40年後、ゆかりちゃんは座禅を組むのをやめた。

座禅より、ずっと早くて楽なものを見つけたからだ。

たったひとこと。
魔法の質問。

私は何が起きればいいの?