12.3歳

今日の主役は、不登校になりかかったひとりの12歳。
中学1年生。
誕生日がまだきていなかった。

その頃、まだ、不登校という言葉はなかった。
登校拒否と呼ばれていた。

彼女が書いたB5ノート13冊に渡る日記がある。
日記の相手だった担任教師が、未来のために日記は捨てずに置いておけと言った。

いかに12.3歳が、大人にとって理解しがたい存在であるか、未来のあなたに13歳のあなたが教えてくれるだろう。

教師はそう言った。


彼女が学校に行くのをやめようと思った理由は、大した理由ではなかった。
いじめにあったわけでもない。
友達もたくさんいた。
成績は良かった。
クラブは嫌いだったが、彼女はそもそもまじめにクラブに参加していなかった。


ただ、学校がつまらなかった。
同級生は子供じみて見えた。
授業は簡単すぎた。
いじめを見るのは嫌いだった。
学校に反抗するヤンキーはバカだと思っていた。


行く必要ある?ない気がする、行くのやめよう、と彼女は軽く決めた。
母親には、お腹が痛いから学校休むといった。

たまたま、彼女の担任教師は、登校拒否に長く取り組んできていて詳しく、本まで出しているような人だった。

彼女は、登校拒否になりそうなタイプの子に当てはまっていたらしく、彼女が休んで2日目に、担任教師はすぐに家に来た。

その次の日も教師は彼女の家に来た。
教師は彼女に言った。

いろいろな場合があるから、学校に行くことだけがいいとはいえない。
おやすみしたり、別の学校を探した方がいい場合もある。
だけれども、この場合、1週間休んだら、あなたはもう学校には戻らないだろう。
あなたは学校に来た方がいい。

今、学校に行くことより、先で社会に戻る方がずっと大変なんだ、と教師は彼女に現実を語った。
中学校は3年で終わる。
あなたの人生は、その先もずっと続く。

彼女は、深い考えや強い意志があったわけではなく、ただ、学校に行くのをやめようと感じていただけだったので、たった3日休んだだけで、必死に話す先生の話を淡々と聞いていた。
未来について考えたことなどなかった。


みんなが子供に見えるんでしょう?と教師は聞いた。

はい、と彼女は答えた。

担任教師は、中学生の脳はまだ成長過程にあり成長のスピードが個人個人違うこと、彼女はみんなより少し早いスピードで大人になり始めていることを話した。

そして、言った。

だからね、私があなたの話を聞きましょう。

そして、教師と彼女は交換日記をした。
1年間。
13冊。

教師は、彼女を一度も子供扱いしなかった。
彼女の話を読み、時には彼女より長い返事を書いてきた。

自分が人生の苦しい時期をどのように乗り越えたか、自分の娘のはなし、自分が支えにしていることば、それから彼女の書いた相談への返事。


皆勤賞にはほど遠かったが、彼女は学校に通い続け、3年後、彼女は中学校を卒業した。

卒業する時に、サイン帳にメッセージをお願いした。

教師は書いた。

あなたには立ち上がる力がある。
あなた自身の手と足で
よく頑張ったと思える人生を
作っていってください。



そのことばは30年以上、彼女を支えることになった。


そして、ある時、彼女は13冊の日記を読んだ。
子供の思春期に悩む母親からの相談を仕事で受けたからだ。


日記を読んだ彼女は思った。

わけがわからない。
なんだ、この子は。


自分自身にすらわからない、それが13歳のようだ。
ひどくアンバランス。

なるほど、と思った。