未来からのSOS:ゴミ屋敷の片付け with シンボリック・モデリング

去年の年末、私は白昼夢を見た。
それは、過去の自分が集団で、「ありがとう」とお礼を言いにきて以来のことだ。

数年前、「過去の自分たち」が集団で私の前に現れて、その中の一人の女の子が言った。
「ありがとう、あなたが頑張ってくれたから、私たちみんな、幸せになりました。今度は、私たちがあなたを幸せにする」

以来、確かに、過去の私(つまりインナーチャイルド)の活躍は目覚ましい。
今や、過去の自分の全ては、今の私を助けるために存在する。


そして、今回、私が見たのは「未来の自分」だった。

「未来の自分」は、広いだけの家の前に立ってため息をついていた。
その未来の自分は、広いだけのその家を片付けなくてはいけないのだ。
もう誰もいないその家を。

それは、「未来の私」が、今の私、つまり私に送ってきたSOSだと私は思った。

「未来を変えて欲しい」


つまり、それは、今の私は、未来を変えることができるポイントにいるということで、そして、今の私にはそれができるということだ。


それで私は、その「ゴミ屋敷」の片付けに取り組むことに決めた。

その家には、今、祖母と母の姉の叔母Aが住む。
叔母Aには子供がいない。

(母の妹、叔母B、叔母Cも近くには住んでいる)

母は、父のことがあるので、家を空けるわけにはいかない。
(だから、私は時々、祖母と叔母に会いにその家に数日間滞在する)

そして、私は祖母の初孫で、私が生まれた時、ちょうどタイミング的に母方の親戚の中には赤ちゃんや幼児がいなかった。
そんなわけで、私は、身内のお笑い系アイドルとして幼少期を過ごした。
私は、父不在の数年間、その家で暮らしたことがある。
田舎の親戚は、ほとんど他人のようなところまで親戚なので、やたら人数が多い。
いとこの誰々のお嫁さんのいとこの誰々の・・・まで親戚。
ややこしいので、もう、全員、親戚。
そのやたら人数が多い母方の親戚をコンプリートして、全員と仲がいいのは私一人だ。

まあ、適任っちゃ適任だ。

70歳になった未来の私がたった一人でやらねばならないことを、今の私なら、一人ではなく、みんなに手伝ってもらってすることができる。
彼らにとって、私はいつでも、「愉快でおしゃべりでご陽気な小さなYちゃん」だ。

その中の戦力の一人に、私は、夫を加えた。
この人は、自分の親戚と私の親戚の区別ができない。
本音の本音で、おそらく、自分の家族だと思っている。
今年のお正月など、私はいなかったのに、一人で私の実家に行って一日ゲーム大会を楽しんできたらしい。
もしかしたら、私とも血が繋がっていると思っているかもしれない。
まあ、それくらい区別を付けないというか、区別しない。

だから、夫にゴミを処理場まで運ぶのを手伝ってもらおうと思ったのだ。

夫は、これまた、なんでかは知らないけれど、親戚のみなさんからの評判が評判がいたく良い。
本当に、夫は、自分の母親の誕生日も覚えていないような人なので、親戚にももちろん何もしていないように私には思えるけれど、なぜかは知らないが評判がいい。

ところが、この夫、少し前に、なんとも器用に、平面のキッチンの壁に足の小指をぶつけて足の小指を骨折した。

戦線離脱。


というわけで、私は、叔母Cに電話して、叔父Cにゴミを運んでもらえるように頼んで欲しいとお願いした。
しばらくして、叔父Cから「まかせちょけ、おじちゃんが運んじゃるけえ」と生き生きとした返事が返ってきた。
この人もまた、「愉快でおしゃべりなご陽気なYちゃん」を可愛がってくれた一人だ。


そんなわけで私は一人、ゴミ屋敷へと向かった。
夫は、ペットの猫たちとうさぎと数日自分だけで暮らすことに浮かれ、ご機嫌で私を送り出した。
普段、猫たちやうさぎは私にべったりなので、夫は、猫たちが自分に寄ってくることが嬉しくてたまらない。


課題は、まず叔母Aが「家を片付けることに気分良く納得できるような段取り」にすることと、私は頭の中を整理した。

「問題に取り組むときは、周辺部から近づいて、ペーシングをしっかりして、そして、登場人物をよくモデリングして、変化してもいいよというタイミングを見計らって機を逃さないようよくキャリブレーションして」と、私は新幹線の中、頭の中で、シンボリック・モデリングの「問題の取り扱い方」を復習した。

私はそのフレームを、ゴミ屋敷の掃除に転用しようと思ったのだ。
シンボリック・モデリングは、環境問題にも使われたりもする。
関わる人の声を意思決定にリソースとして反映できる。
シンボリック・モデリングは、そのフレームが応用できる範囲が尋常じゃなく広い。

名付けるならば、私のこのプロジェクトは、「ゴミ屋敷の片付け with シンボリック・モデリング」だ。


急ぐな、ゆっくりゆっくり、スローダウンして、ゆっくりゆっくり。
おそらくは、変化を好み、物事が変わっていくことに全く抵抗がない私が気をつけなくてはいけないのは、ペース配分だろうと思った。

ゆっくり、ゆっくり。
何しろ、そこには二百年くらいの時の流れがあったのだから。

ゆっくり、ゆっくり。
けれど、機は逃さずに。
よくキャリブレーションして。

そして、私は、その家全体と、登場人物と、ゴミと歴史を、一つのランドスケープに丸っと入れた。

一応、自分の中で確認したのは、「ゴミ屋敷が片付く、すると、何が起きる?」だった。
答えは、「みんなが笑顔になる。未来の私は、もうその家の前には立っていない」だった。



そして、その家に到着し、明日から片付けをしようというその日、その家にやってきた叔母Cが私に「ちょっと仕事をしてくれる?」と言った。

叔母は、セッションのお客さんを連れてきた。
このお客さんは、その日初めて会ったけれども、尋常じゃなく多い親戚の一人だった。
場所がなかったので、青空の下、坂道に腰かけてセッションをした。

すると、何が起きたかというと。

その関係性を明らかにするのが難しい親戚のご夫婦は、翌日からの片付けを、叔母C夫婦と一緒に手伝ってくれた。
彼らは人脈を使ってくれて、私がどう処分するかな…と考えていた農機具一式まで、その日のうちに業者さんが来てくれて引き取っていってくれることになった。

力がいるところは、叔父Cとその親戚のおじさんがしてくれた。

「Yちゃん、これはどうするね?」とみんなに聞かれ、私は、「ちょっと待って、おばちゃんに聞いてくる!」と叔母Aのところへ走り、叔母Aに確認し、みんなのところへ走って戻り、叔母Aの言葉を伝達した。

まるで、クリーンな質問を投げて、クライアントから返ってきた答えを、もう一度まとめてクライアントに聞かせるために整理して、フィードバックループを使って、リキャップするみたいな流れを、私は何度も繰り返した。

みんなをよく観察して、モデリングした。


そうして、その日の最後、片付けは予定外にとんでもなく進んでいた。
叔母Aも、家が片付いていくことに、抵抗がなくなったようだった。

そして、みんなが最後に聞いた。
「次はいつやるの?日が決まったら、また、手伝っちゃるけえ、連絡してよ」

おっしゃ、チームができた、と私は思った。

いわば、メタファーの間に関係性が構築され、一つのメタファー・ランドスケープとして機能し始めたような感じ。

ええとね、これは、ステージ2と3の間くらい。
大きな変化はもう少し後だ。

感触は悪くない。


そして、私は、ふっと口にした。
「これは、夫は、もしかしたらものすごくいい仕事をしたかもしれんねえ。そもそも私は夫と2人でやるつもりやったんじゃけえ。影の功労者は、痛い思いをした彼かもしれん。あの人がここにおったら、この流れにはならんかった。私が一人やったから、みんな助けてくれたんじゃろうし」

(私が喋れる方言は大阪弁だけではなく、私は中国地方のある地域の方言も話せる)


なぜにあんな平面で、どうやれば指を骨折できるのか、謎でしかなかったけれど。

そして、何にもしていないのに、夫の親戚内の株が爆上がりした。
「ほんまに、いいひとと結婚したねえ。あんた、感謝せないけんよ」と、叔父や叔母は言った。

いえ、「彼は、猫たちとパラダイスのような日々を過ごしているはずなので、おそらく、彼も私が留守をしたことに感謝しているはずです」、と私は確信を持って思った。

親戚は、「そんなことはない。それはあんたに気を使わせんようにそうしてるだけだ」と言ったが、私は、私のこの確信が正解であることを知っていた。
なぜなら、私のスマホに、彼は、私の不在中、毎日、嬉しそうに、自分にくっついている猫の写真を送ってきていたからだ。


そして、私は、自分の家に帰ってきた。

夫は、案の定、猫たちとうさぎと過ごした数日がとても楽しかったようだった。

「みんながありがとうって言ってたよ」と、伝えると、さらに嬉しそうな顔をした。

私は「小指を折ってくれてありがとう」と言った。


そして、それから、私は、エフェクトチェックをした。
つまり、「これらが全てこのようである時、70歳の未来の私に何が起きる?」と、自分に向けて質問した。


未来の私は、私の中にいる。
今の私は、未来の私を作っていっている最中だ。
いつでも、今は、未来に影響する。

未来からは手の届かない過去、それが、今、だ。


すると、70歳の未来の私はやはりそこに立っていた。
けれど、目の前に建っている家が違った。

私が見たことがない新しい家がそこに建っていた。
そして、その私の表情は満足げだった。


あれ?と私は思った。

もしかしたら、今、しているこの作業は、あれ?


その後、母に報告の電話をかけた時に、私の見た白昼夢やもろもろについては何も知らない母は言った。

「あなた、あそこをあなたの別荘にしたらいいのよ。お母さんの従兄弟の大工さんに頼んであげるから」


あれ…?


まあ、いいや。

ともかく、次回は5月。
私のゴミ屋敷の片付け with シンボリック・モデリングは続く。