埋め込まれた意味
「埋め込まれた、または、埋め込まれている(embedded)意味」という言い方を、シンボリック・モデリングで使う時がある。
(初心者さんは習いません。あしからず。)
クライアントの言葉の裏や背後にあるものだ。
クリーンランゲージでは、決めつけはしないが、推測はする。推測しないと、質問できない。
何を推測しているかというと、クライアントの言葉から、クライアントの理屈(論理や思考構造など)を推測している。
そこに沿う質問をするために。
これが今回、非常〜に役に立った。
私の叔母が抱えていた問題の一つは、「目を話した隙に、祖母がベッドから立ち上がり、そのまま床に座り込むこと」と、「祖母が夜中に叫ぶこと」だった。
祖母が床に座り込むと、叔母1人では、祖母をベッドに戻せず、数十分離れたところに住む別の叔母夫婦が夜中に来る。
この別の叔母は、いつ呼ばれるかわからないため、安眠できない。
床に座りこんだ祖母は、叫び続ける。
そうでなくても、祖母は叫んだり、大声で歌い続けたりする。
・・・と、いうことだった。
私は、ひとまず観察することにした。
すると、祖母が、叫ぶ直前に、叔母の下の名前を呼ぶこと。
それから、祖母が、独身時代に戻っていること。
そして、「帰りたい」と言って、立ち上がることに気づいた。
その後、叔母は、「ここが家」と言うが、祖母は納得せず、叫び続ける。
祖母は歩けないので、そのまま。
まあ、よくある話だ。
それで、私は、祖母が叔母の名前を呼んだ時に、叔母を制して自分が近づいた。
以下、私と祖母のやりとり。
私: どうされました?
祖母: 家に帰りたい。
私: お家は、どこですか?
祖母: 私は、山田花子(仮名)。山田の家に帰りたい。
私: 山田花子さん。山田さんの家は、どこですか?
祖母: (少し考えてから)それが、わからんねえ。
私:わからんですか。 ほんなら、わかるまでここにいんさったら?(いたらどうですか?の方言)
ここは暖かいし、もう、夜だし。
祖母: あなたはどなた?
私: 私は、〇〇(旧姓)ゆかりです。
祖母: ゆかりちゃん。
私: そう。
祖母: ここはあなたの家?
私: ここは、私のおばあちゃんの家。じゃけえ、ゆっくりしてもらってええんですよ。ここは安全じゃし、温いけえ、朝になるまで、ここにいんさったら?
祖母: ほいじゃが、私は何もできんけえ、ご迷惑ばかりでお邪魔じゃろう?
私: そないなことはないですよ。私のおばあちゃんも、結婚前は、山田花子いう名前やったんですよ。
祖母: (笑って)そうね。そりゃ、珍しい。(祖母の名前は珍しい)
私: ほんなじゃけ、何かのご縁ですから、ここにおりんさったら?おってくれたら、私も嬉しいです。
祖母: ほんなら、そうしようかね。お世話になります。
私: ゆっくりしてくださいね。
ちなみに、「靴がない」バージョン、「ここはどこ?」バージョン、「なんでこんなに真っ暗なのか(祖母は失目している)」バージョン、「知らない男の人が、何かはわからないが、自分の持ち物を持って逃げた(祖母には幻覚がある)」バージョンにも、同じフレームで対応できた。
話は全て、「どこ?」からスタート。
つくづく、場所は重要なのだ、と、私は学んだ。
そして、どのバージョンでも、やりとりの中で、祖母は必ず、「私は何もできんけえ、ご迷惑ばかりでお邪魔じゃろう?」と言った。
祖母の行動パターンに埋め込まれた意味はこれだ、と、私はあたりをつけた。
いやもう、私が、どれだけ、シンボリック・モデリングおよび、クリーンランゲージに感謝したかは書き切れない。
自分では意味を考えるな、クライアントの言葉をそのまま聞け、という話。
毎日叫ぶはずの祖母は、私の滞在中、私が観察していた最初の一回以外は、一週間一度も叫ばなかった。
最初、叔母は、「あんた、また、魔法を使った?」と聞いた。
「いや、単なる技。誰でもできる」と、私は言った。
私は、叔母に、私と祖母のやりとりを5回見せた。そして、帰る間際に、叔母に説明した。
とりあえず、叔母たちが健やかに眠れるようにしないといけない。
帰る直前、祖母がまた、「帰りたい」と言った。
叔母は、静かな声で、祖母に問いかけた。
そして、二人は、静かに会話していた。
私は、少しだけ、涙が出そうになって、そして、駅までのタクシーに乗った。
叔母が、満面の笑みで、手を振って見送ってくれた。
私は、クリーンランゲージとシンボリック・モデリングに、心から感謝したい。