ガイドライン
心や精神の働きに作用し、より豊かに、より幸せに、より苦しみが少なく生きていくために作られたたくさんのガイドラインは、多くの場合、固有の名称を持つ。
宗教と呼ばれるもの、技法と呼ばれるもの、自己啓発と呼ばれるもの、哲学と呼ばれるもの、スピリチュアルと呼ばれるもの、ガイドラインが存在する分野も分かれている。
これであなたも小悪魔に!というモテ技術から、よりよき人生を送るにはという包括的なところまで、カバーする範囲も様々だ。
そのため、それらは、ひとつひとつ、別のことに見えることがある。
実際にやり方は、それぞれまるで違う。
どこから心や精神に近づいていくかも違う。
何を媒介とするかも違う。
言葉を媒介にするもの。
体を媒介にするもの。
動作を媒介にするもの。
呼吸を媒介にするもの。
物質を媒介にするもの。
イメージを媒介にするもの。
音を媒介にするもの。
見た目から入るもの。
内側から入るもの。
いろいろな種類のガイドラインがある。
私がセッションを続けてきた中で、クライアントさん達は、なんらかのガイドラインをすでに用いていることが多かった。
そして、それが非常に効果的にその人に作用している場合もあれば、全く作用していない場合も、また、そのガイドラインがその人の成長を妨げている場合も、現実にあった。
私には、ガイドラインそのものに問題があるとは思えなかった。
ほとんど、おまじないに過ぎないように見えるガイドラインもあったが、おまじないは、ばかにできるものではなく、おまじないを信じる人にはそれは作用する。
人が信じる力はすごいのだ。
私は観察し続けた。
理由はひとつだ。
セッションのクライアントさん達をサポートしたかったからだ。
そして、ガイドラインが使う人にどのように作用するかは、その媒介に使われているもののどれが自分に作用しやすいかの見極めがあっているかどうかにも関係すると感じはじめた。
自分に効果があるガイドラインと、自分が好きなガイドラインはまた別のようだということにも気づいた。
心や精神に関わるガイドラインには、人を心酔させる力があることがある。
そして、これは不思議なことだが、効果があるから心酔するというわけでもない。
なんら自分に変化をもたらさないガイドラインにも、人は心酔できる。
そのガイドラインそのものの魅力だろう。
それでその人が満足ならば、それはそれでなんら問題ないと私は考える。
人生は、自分が納得できれば、それでいい。
ただし、セッションのクライアントさん達がそうであったように、なんらかの効果を求めて、ガイドラインに手を伸ばし、そして自分には効果がないという時。
経験的には、3年使って、自分になんら効果を見つけることがなかったなら、そのガイドラインは、その人には合わないと推測できる。
可能性としては、媒介にしているものが合わないのかもしれない。
効果がある媒介は、好きな媒介、とは違う。
その人により、効果的に働く媒介は異なる。
心や精神が影響を受けやすい媒介は違う。
わかりやすい例としては、例えば、映画を見て泣く人もいれば、無感動の人もいる。
音楽を聴いて心が動く人もいれば、全く何も感じない人もいる。
走るとすっきりする人もいれば、ただ疲れるだけの人もいる。
肌に触れられると温もりを感じる人もいれば、不快に感じる人もいる。
優しい言葉で救われる人もいれば、人の言葉には心が動かない人もいる。
それが好きかどうかとは、また別の話だ。
心や精神が動くかどうかが、ガイドラインが効果的に働くかどうかには関わる。
多くの場合、人は、自分にとって当たり前のことを好きとは感じない。
だから、好きな媒介が、効果がある媒介とは限らない。
もちろん、好きな媒介と効果がある媒介が一致することもあるが、自己受容と自己肯定ができていない状態の時、そこにはずれがあることも多い。
ガイドラインの多くは、いくつかの要素を組み合わせてあり、どれか一部分からだけのアプローチではないことがほとんどだが、どの部分を一番使うかは違いがある。
また、ガイドラインを使用することで、どんどんと、日常の暮らしと自分が乖離していくように感じたり、普通の暮らしがつまらなく感じはじめたり、そのガイドラインを使わない他の人がつまらない人に感じだしたりしたら、そのガイドラインも、その人には合わない。
多くのまともなガイドラインは、人生本筋から、その人を引き離してしまうようには作られていない。
人生をサポートし、より豊かにするように作られている。
そして、時に。
なんのガイドラインも必要ない。
必要なことは、現実の生活の中にあるものだけだという場合もある。
どのようなやり方でもいい。
どのような感情でもいい。
ただやるだけが必要なこともある。
ガイドラインは、あくまで、人生をサポートするだけで、人生の主役にはなりえない。
人生の主役は、いつでも、人生を生きるその人そのものだ。
もしも、その人自身を人生の主役から引きずりおろすガイドラインがあるならば、それは、その人の人生に相応しいガイドラインではないかもしれない。
長く、心や精神を向上させたい、豊かに生きたい、成長したい、苦しみから解き放たれたいと取り組んできて、それでも効果がないという人がもしいたら。
クリアできない課題を抱え続けている人がもしいたら。
私のおすすめは、2つだ。
使ってこなかった媒介を用いているガイドラインを使ってみること。
どうしても、自分が好きなアプローチを人は選びやすい。
自己肯定と自己受容に関わるテーマを抱えているなら、なおのこと、媒介を変えてみるのは効果があるかもしれない。
または、一度、すっぱり全てのガイドラインを手放すことだ。
現実の中に、効果的なことがあるかもしれない。
または、少し離れてみることで、見えることがあるかもしれない。
もしも、離れることに恐れや不安を感じたら、その恐れの根っこにあるものこそが、効果を弱めてきた原因の可能性がある。
ガイドラインは、作った人たちの愛からできている。
それらの人たちが知った知恵や経験を分かち合ってある。
分かち合われた知恵や経験、愛を、どのように使うかは、使う人次第だ。