500本
「君が500本、披露宴の音響をやってから、それは言ってくれる?」と、披露宴後の会場で、バイトの男の子を淡々と叱り倒した日のことを思い出した。
その日、その披露宴担当のプランナーさんが、披露宴途中で、私のところに走ってきた。
「あの音響オペレーターの子をなんとかして!」
音響オペレーターは、私の管轄だった。
厳密には、そのころ、私は平社員で、私には上司がいたが、プランナーさんからのクレームは私に入ることになっていた。
そのとき、私は、休憩室に座っていた。
私を探す人は、だいたいそこに来た。
私は、休憩室の室長というあだ名を持っていた。
その休憩室は、6000坪の敷地に点在していた全ての会場へのアクセスが非常によく、私は土日はそこで主に過ごしていた。
どこにでも走っていけるから。
そして、人は、休憩室だと本音を話すから。
狭っこい事務所は、若いスタッフがやかましかったというのもある。
そのとき、プランナーさんが言うには、その音響オペレーターは、全て音出しが5秒遅いと言うことだった。
この後、お色直し入場だということで、私はテクテク会場に向かった。
確かに、5秒遅かった。
誰も、そんなことは教えていないはずだった。
私はオペレーターの隣に立って、「次は、私がタイミングを出すから、そこで音入れして」とニコニコ笑いながら言った。
披露宴会場では、何を言うにも、顔は笑顔。
私の顔と感情は必ずしも一致しないが、これは、この期間で鍛えられた。
私は、たとえ激怒していても、顔は満面の笑みが作れる。
このとき、若い私は、「勝手なことして、私の仕事を増やすな。習ったとおりにやらんかい。しばくぞ」と思っていた。
披露宴後、片付けをするその男の子に、私は理由を尋ねた。
「その方がかっこいいと思ったから」と、彼は答えた。
それで、私は、最初に書いたことを言った。
それから、「これは、君の披露宴じゃない」と、淡々と言った。
男の子の顔はひきつっていた。
私は、「ああ、また怖いって言われる」と思った。
なんとなく、今日はこれを自分に思った。
500本、翻訳したら見えることがある。
あの日、しばくぞと思った彼に、私は学んだわけである。